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Highlighting JAPAN

 

日本の伝統を未来につなげる夢

老舗梅干し専門店の役員、ゾェルゲル・ニコラさんは、日本の銘品を販売する越境ECサイトの運営も行っている。ドイツから日本に移り住んだ彼が、なぜ日本の伝統を海外に発信することになったのか。

『NIHON ICHIBAN』は、日本の伝統的な食品や工芸品、美術品を海外に向けて販売しているECサイトである。運営するゾェルゲル・ニコラさんは、勤めていたドイツ企業の日本法人への転勤が決まったため、2001年に来日した。2010年に、妻が実家の老舗梅干し専門店「ちん里う本店」の5代目に就任したことをきっかけに会社勤めを辞め、共に経営に携わることとなった。

「その頃、同じ百貨店で販売していた老舗店の仲間たちは、『日本の市場は縮小している』『海外に売りたいが、やり方がわからない』と言っていました。これを聞いて『私ならできる』『自分の強みになる』と思いました」

ニコラさんはちん里うの海外事業部を作り、2012年に『NIHON ICHIBAN』を立ち上げた。当時は何の形も実績もなく、交渉の材料は企画書だけだったと言う。「企画書を持って、日本各地の職人さんや老舗メーカーを訪ね歩きました。そこでよく言われたのは『商品をインターネットで売りたいという連絡は何度も受けたが、現地に来たのはあなただけ』との言葉です。足を運ぶことで信頼関係が築けるし、作業現場や作り方を自分の目で見ると理解が深まり、商品の説明をきちんとできるようになるのも良いことだと思います」

今では約100社、商品数はおよそ2300点にも上る。「ゆくゆくは商品の数を1万点にまで増やしたい」とニコラさんは語る。彼が思い描く『NIHON ICHIBAN』の夢は、『老舗ホールディング』の実現である。

「日本の伝統品のつくり手は、多くが後継者不在の問題を抱えています。廃業してしまえば日本文化の一部が失われることになります。『老舗ホールディング』は国際的な販売ネットワークを作り、職人さんのノウハウがあるうちにそれを守る仕組みです。また、彼らの中にはモノづくり以外のことが苦手な人も多いため、財務やマーケティングの専門家、あるいはデザイナーなどの人材をそろえ、みんなでシェアしていく仕組みも構築するべく、毎年少しずつ、パズルのピースを埋めるように作業を進めています」

この一環としてニコラさんが進めているのは、海外向けの商品開発である。皮切りとなったのは昨年、ヨーロッパ市場に向けてメーカーと共同開発した甲州印伝で、現地の嗜好に合わせたシンプルな模様を採用している。

「日本の商品は、そのままで売れるモノと売れないモノがあります。国や時代に合わせて、日本の伝統に新しい風を吹き込むことも時には必要です」

ニコラさんのビジネスは少しずつだが着実にその規模を拡大しているものの、最初から順風満帆だったわけではない。最初の数年は休みもなく、サイトの作成から商品仕様の執筆などまで、すべて自分一人でこなしていたと言う。
「サラリーマン時代もゼロから作り出す作業は何度もやって来たので、せめて3年は頑張らないと結果が出ないことは分かっています。」

日本の伝統を未来へつなげていく。その夢をかなえるために、彼は今も着実に歩み続けている。