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Highlighting JAPAN

ICTの活用で最高級のいちごを安定供給

震災の被害を受けた地域が数値化、見える化による生産システムを確立し、ブランドイチゴを生産している。

東日本大震災により、9割のいちご栽培ビニールハウスが壊滅的な被害を受けた宮城県山元町。その地で2011年から情報通信技術(ICT)を活用し、1年でゼロからいちご栽培を成し遂げた会社がある。農業生産法人 株式会社GRA(以下GRA)の代表取締役CEO岩佐大輝さんは山元町出身で、東京でIT企業を経営していた。地元被災地の産業を復興させたいという思いと、自ら培ったITの知識で、山元町のいちご産業に新しい風を吹き込んだ。

「ビニールハウスの環境や植物体の状況、収量を一貫して数値化し、付き合わせることで、栽培がうまくいかなかった場合に因果関係を突き止めることができます。これまではベテランの経験と勘に頼るやり方で、数値化が全くなされていませんでした。それでは新規参入しづらいし、産業としても発展しにくく、復興も時間がかかり過ぎます。農業でもPDCAサイクルを回すことができれば継続的に改善でき、ある程度理想的な環境を作ることができます」と、GRAの研究員菅野さんは話す。

このため、ICTを活用し徹底的な数値化を図っている。初年度は十分なサンプルがなかったため収量はあまり良くなかったが、その後蓄積したデータベースで改善策が明確になり、2年で軌道に乗せた。

「経験や勘だけに頼ってきたこと、例えばハウス内の温度、湿度、日射量、二酸化炭素濃度などの環境制御は、人より自動システムを利用した方が明らかに効率的です。GRAでも自動環境制御装置を使い数値を設定しています。意図した環境に近づけられるので、経験が浅くてもかつてより早く従事できるのです。データはほぼリアルタイムでモニタリングでき、クラウド化された情報をどこにいても共有できるようにしています。これこそ、IT化の恩恵と言えるでしょう」と菅野さんは話す。ICTの活用により糖度が高く、形が美しいいちごの安定供給ができるようになった。いちごの味も「磨けば光る」をコンセプトに作られた上質な3品種の統一ブランド『ミガキイチゴ』は山元町を代表する名産になり、都内有名デパートでの独占販売や、高級いちごとして海外へ輸出されるブランドになった。

一方、農業は目標値や指標を決めるのが難しいため、ベテラン職人の知識も借りている。GRAでは、職人が長年の経験で培った“なんとなくの感覚”も数値化することで、見える化を行っている。「今までベテランしか分からなかったことが明確になると、参入しやすくなります。それが新規就農者を育てることにもつながります」と菅野さんは話す。

2012年〜2017年度には、復興庁・農林水産省プロジェクト研究「食料生産地域再生のための先端技術展開事業」のメンバーの一員として、GRAも様々な研究を行った。菅野さんは、旧来にはない新技術の実証に取り組むと同時に病害対策にも力を入れ、いちご栽培のための理想的な環境を作り上げてきた。

また、山元町では震災の津波の被害で土耕ができなくなり、GRAはヤシ殻を使った養液栽培方法を取り入れた。気候や土壌に大きく左右されない生産方法は、環境制御がしやすいハウスならではの利点である。現在では他地域の従事者にも展開され、愛知や神奈川でも「ミガキイチゴ」が作られている。2012年からインドでも栽培を開始している。ICTが今後の農業の発展に果たす役割に大きな期待が寄せられている。