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Highlighting JAPAN

大学がつなぐ6次産業の新たな形

ある大学准教授が、これまで捨てられてきた農産物を活用し、地域の様々な企業や自治体を巻き込みながら、商品開発からプロモーションまで包括的に携わり新たな価値を生み出す活動を広げている。

松本大学は長野県中部に位置し、「そば」や「わさび」の名産地である安曇野に近く、大学の周辺には、のどかな田園風景が広がる。同大学は、6次産業(参照)の推進及び資源の有効活用に取り組みが評価され、長野県中信地区6次産業推進協議会とともに、2016年度食品リサイクル促進等総合対策事業における「第4回食品産業もったいない大賞」で最高位である農林水産大臣賞を受賞した。従来は不用品として破棄されていたそば粉の残渣から「焙煎そば粉」、わさびの葉から「わさび葉ペースト」という新たな食品素材を生み出した。さらに地元食品メーカーと共同で「焙煎そば粉」を用いた「アルクマそば」を開発し、現在までに累計55万食・売上1億円を超える人気商品となっている。このように産官学の協働によって地域の特性を生かした商品開発やブランド化へとつなげているほか、様々な業種の企業や自治体等と協力しながら、首都圏でのイベント出店やバスツアーによる観光客誘致などを通じ、地域産業の活性化に大きく貢献した点が評価された。

安曇野産の農産物にはブランド価値があるため、良いものを作れば、それだけで生計が成り立つため、22kgの玄そばから9kgのそば粉をとった残りは製粉カスとして捨てられていたり、加工すれば食べられるわさびの葉が廃棄されていたりするなど、“もったいない”の観点が抜け落ちていた。松本大学人間健康学部健康栄養学科の矢内和博准教授は、そこに目をつけ、安曇野市や安曇野市商工会、一次産業の生産者である斉藤農園、二次産業の食品加工業者であるあづみの食品、三次産業の販売業者や観光業者であるJR東日本長野支社やアルピコ交通などの協力者を次々と巻き込み、学生とともに商品開発からプロモーション活動まで、包括的に携わるプロジェクトを4年前に始動した。

矢内准教授はこのような6次産業推進を軸とした取組を「松本大学地域活性化モデル」として構築した。一般的な6次産業では、1次産業従事者が2次産業・3次産業にも自ら取り組み、所得の向上を目指すが、このモデルは大学や行政がハブとなり、1次産業・2次産業・3次産業を連携させながら、生産・観光・販売すべてに関わることで、プロジェクト全体を最初から最後までマネジメントするところに特徴がある。「結局、餅は餅屋。それぞれの専門家と組んで確実に売れるものを作り、みんなで収益を分配するほうが、みんな気が楽だし、もっといいものができると思います」と矢内准教授は語る。

「産官学連携は、単発で新商品を開発するだけでは、もはや実績や貢献にはなりません。単純に商品が売れたというだけではなく、それによって社会がどう変わり、どのような経済効果が生まれたのかといった結果を追求しながら、これからも多くの成功事例を作っていきたいです」と矢内准教授は語る。

矢内准教授は、そば・わさびに限らず、りんご・いちごなど、安曇野の様々な農産物にこのモデルを適用しながら、農家の収入増・子育て支援や障害者就労を含む新たな雇用の創出・観光客の誘致など、地域の発展を目指した新たな取組に今後も挑み続けていく。