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Highlighting JAPAN

食の未来を拓く米の品種改良

米を主食とする日本では、より美味しく育てやすい米の開発を目指し品種改良の研究がなされ、新品種が続々と誕生している。

日本で育成される米の種類は300種類以上あるが、そのうちの5種類の米だけで作付面積割合の3分の2を占める。「その5種類とはコシヒカリを筆頭とする、日本の消費者に人気のいわゆるブランド米です」。米の品種改良のエキスパートである国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)次世代作物開発研究センター稲研究領域領域長の山口誠之さんは資料を示しながら話す。「でも実はこの5種類、元をたどれば全てコシヒカリから品種改良されました」。

日本では約100年前に農業試験場が開設され、国立だけでなく自治体レベルでも米の品種改良技術の研究が盛んになった。日本は南北に長い地形なので、北と南では気候が違い、全国で同じ種を育てた場合収穫期に時間差が生じる。米をそれぞれの農地で最も効率的に収穫するため、種の地域最適化を行うのが品種改良の目的の一つである。

品種改良は、ある品種のめしべに別の品種の花粉を「交配」してできた種をまき、育った種の中から望む性質のものを「選抜」して種を収穫する。それを育てた中からさらに目的に適った種を選抜する作業を繰り返し、目的とする性質を「固定」するまでが一連の流れである。固定するまでには稲を育てては選抜する作業を6〜8回繰り返さねばならず、一つの品種改良には10年近くの年月がかかる。

1921年に生まれた日本最初の優良品種「陸羽132号」を親として1931年に「農林1号」が、さらに「農林1号」を親として1956年に「コシヒカリ」が生まれ、味も見た目も良いと大ヒットした。「でもこれは、品種改良の面では問題とも言えました」と山口さんは指摘する。「収量よりも食味を追求する流行ができ、食味に定評のあるコシヒカリをもとにして全国で品種改良が行われた結果、コシヒカリの弱点である収量の少なさ、栽培中の倒れやすさ、病気への耐性の弱さなどを引き継いだ米が各地の人気ブランド米として普及しました」。

比較的高値で市場に流通するブランド米人気は農家の収入に寄与するため、各自治体はブランド米開発を奨励した。ブランド米の産地間競争が激しくなる一方で、国の補助金がもらえる飼料用米も農家には人気となっている。山口さんは「日本の米に、収量が少なく栽培が難しいブランド米か、飼料米かという二極化が起こった」と指摘する。非ブランド米である業務用の米が作られなくなると米の値段が上がってしまうからである。

農研機構は、多収を品種改良の育種目標とし、和食から多様な文化の料理まで様々なニーズに合わせて使えるよう、業務用米の種類の充実を図っている。「私たちの目的は、国内の安全安心な品種を開発することです。外食産業などで使われる業務用米として、量も味も栽培のしやすさもクリアした多様な品種を開発し、生産者と企業との需要と供給をマッチングさせています」。農研機構が開発した中で山口さんが海外の読者にお勧めするのは「笑みの絆」という寿司専用米である。酢飯に向くあっさりした食味で、しかも多収である。今後は、中食(市販の弁当や惣菜を購入して食べること)・外食向けの業務用米開発を進め、海外への積極的な輸出も視野に入れていきたいと、山口さんは語った。