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Highlighting JAPAN

バス事業の「見える化」

埼玉県のバス会社が、ラオスの首都ビエンチャンでバス運行改善に貢献している。

埼玉県川越市に拠点を置くイーグルバス株式会社は、路線バス事業の再生を成功させ注目を集めている。

イーグルバスは「事業を通じて公共社会への貢献を推進します」を企業理念の一つに掲げ、主に送迎バスや観光バスを事業の柱としてきたが、2006年、不採算路線から撤退した大手バス会社の後を引き継ぎ、路線バス事業に乗り出した。同社は、路線バスにGPSセンサーと赤外線センサーを取り付け、停留所ごとの乗降客数、運行遅延状況などのデータを集め、合わせてバスの利用者に対するアンケートを行った。収集したデータを分析するソフトウェアを独自に開発し、運行ダイヤを再編、停留所の位置、運行路線の最適化を図り、コスト削減と同時にバス利用者増を実現、赤字バス路線の収支を改善させた。

「バスの運行データ、乗客ニーズ、コスト、改善プロセスなどの『見える化』によって、路線バス事業は改革できます」とイーグルバス代表取締役社長の谷島賢さんは語る。

イーグルバスの事業改善に注目したのが国際協力機構(JICA)である。JICAは、2012年にラオスの首都ビエンチャンのバス公社に42台のバスを無償供与し技術協力事業として「首都ビエンチャン市公共バス交通改善計画」を展開していた。

近年、他のアジア諸国と同様に、ビエンチャンでは自家用車やバイクが急増し交通渋滞が激しくなる一方、渋滞と質の高くないサービスのため路線バスの利用者は大幅に減少していた。JICAの技術協力事業の目的は、バス公社の運営、財務、サービスなどを改善し、乗客増加、交通渋滞緩和へとつなげることだった。JICAの協力要請を受けたイーグルバスは、2014年ラオスの視察団を受け入れて改善の手法を紹介、ラオス側の要請に基づき、翌年ラオスで開催された交通セミナーに参加し路線バス事業改善についての講演を行った。この講演に対し、ラオスの関係者からとても強い関心が寄せられた。「私も、当社の『見える化』が現地で有効かどうかを直接試したいと考えるようになりました」と谷島さんは言う。

2014年から、JICAの中小企業海外展開支援事業として、イーグルバスが事業主体となりラオス国ビエンチャンにおけるバス事業改善システム案件化調査が始まった。1年間の調査の後、普及・実証事業の認定を受け、2016年から改善事業を開始した。9月に42台のバスにセンサーと車内カメラを装着し11月より運行データの収集を開始した。その結果、バス公社のバスは設定されたルートやダイヤ通りに運行されておらず、運行台数も毎日異なる事が分かった。また、乗客は停留所でなく路上で乗降している事が判明した。これは運転士のノルマ制による給与制度に起因していた。この他、運行計画が適切でないために運行待機時間が長く、車内冷房のためエンジンのアイドリングを長時間行うことにより、実際の走行距離以上に、燃料が多く消費されていたことも分かった。

こうしたデータを踏まえ、バス公社とイーグルバスは改善策を練り、路線ルートへの変更、停留所の移動や新設を行い、実施可能なルートからバスの待機時間の削減、待機場所を日陰に移動するといった対策により、燃費改善や排ガス低減にも効果をもたらした。しかしながら運転士のマナーやサービス等、現状では改善が難しいことから、2017年8月JICAやイーグルバスの支援を受け、バス公社内に新たなバス路線の運行を担う組織「City 2」が新設された。新たな組織は日本のサービスや運行管理のしくみを全面に取り込み、京都市から寄贈された25台の中古バスを使用して2017年12月から運行が始まり、2018年1月18日からはビエンチャン中心部と空港を結ぶ路線の運行を開始した。運転士が挨拶をし、車内アナウンスをするなど日本のおもてなしが導入された。

「新組織の路線バスの運行は、劇的に改善しています。信頼性、安全性も高まっており、乗客も増えています。今後は、バスを活用して観光も振興させていきたいと考えています」と谷島さんは言う。

イーグルバスは、また2017年からJICAがカンボジアで実施するバス支援事業にアドバイザーとして参加している。バス事業を通じて社会貢献するというイーグルバスの理念が、アジア諸国にも広がろうとしている。