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Highlighting JAPAN

パームオイル工場排水の処理

日本の大阪の中小企業が開発した排水処理装置が、マレーシアのパームオイル工場で現在大いに利用されている。

急速な経済成長に伴って、工場排水などによる水質汚染問題が起こる場合がある。日本も、1950年代以降の高度経済成長期に、深刻な水質汚染問題を経験し、環境規制や技術開発などによって1980年代に解決を見た。

排水処理の重要な工程に曝気(ばっき)があるが、曝気とは排水処理池または反応タンクに空気を送り込み、微生物を活発化させて汚水を処理する方法である。処理には、水面に設置された羽根やブラシを回転させて水を泡立てる方法、処理池の底部に設置した細かい穴の空いたプレートや管に送風機で空気を送り込み気泡を生じさせる方法がある。しかし、いずれの方法も処理池の水全体を撹拌しにくく空気が池に行き渡らないという欠点があった。その他にも羽根やブラシの騒音、排水の飛散、汚泥によるプレートや管の目詰まりなどの問題があった。

1975年、大阪市の阪神動力機械株式会社(1950年創業)は、世界で初めて、こうした欠点を解消する「アクアレータ」を開発した。アクアレータは処理池の底部に設置し、下部から汚水を吸い込み、送風機が作り出す微細な気泡を、上部にある6つの吐出口から池の全方位に一気に放出する。この処理によって処理池は均一に曝気・撹拌され、汚水が効率よく処理される。

アクアレータはこれまでに約1万台販売されており、国内の下水処理施設の約半数を占める全国約1000か所に導入されている。

「アクアレータは電気代の節約ができます。シンプルな構造で、メンテナンスが非常に楽な点もアクアレータの強みです」と阪神動力機械海外営業課の川島裕貴さんは言う。

同社は現在、アジア諸国での事業展開も進めており、特に、マレーシアのパームオイル工場に力を入れている。パームオイルはマレーシアの基幹産業で、特にマーガリン、石鹸、化粧品などの製品に使用される。しかし、近年、環境汚染とパームオイルの工場排水が連想されるようになった。マレーシア政府はパームオイル工場排水の排水処理基準の順守強化を進めているが、基準を大きく超える工場も少なくない。こうした中、プランテーション事業・商品省でパームオイル産業を所管するマレーシアパームオイル委員会(MPOB)が注目したのが、アクアレータであった。

「2012年、大阪で行われた技術交流会で私のプレゼンを聞いたMPOBの研究者から、『アクアレータを是非使いたい』と言われたのです。そこで私たちは、大阪府や大阪の他の民間企業と協力してプロジェクト計画をまとめました」と川島さんは語る。

プロジェクトは2014年に独立行政法人国際協力機構(JICA)の中小企業海外展開支援事業の普及・実証事業として仮採択され、2016年3月からマレーシア北部のパハン州にある工場で本格的にスタートした。工場には、アクアレータ3台と排水に含まれるゴミを除去するスクリーン装置2台が導入された。また、炭化した汚泥を工場のボイラーの燃料などに使用することを検討するため、汚泥を炭化する装置1台も設置された。阪神動力機械は現地の人材育成のために、日本から講師を派遣し、MPOBやパームオイル関連企業のエンジニアを対象とした研修を2回実施した。

プロジェクトの結果、工場排水のBOD値1は 大幅に改善した2。プロジェクトは今年7月に完了したが、来年には他のパームオイル工場へのアクアレータの導入が決まっている。

「MPOBの研究者から、プロジェクトを非常に高く評価していただき、共同で論文を発表したいという申し出がありました。今後、マレーシアを中心に、アクアレータを東南アジアで普及させ、各国の環境改善に貢献したいと考えています」と川島さんは言う。




1 生物科学的酸素要求量、水質指標の一つ
2 マレーシア政府の定める排水処理基準(最終放流地点)で標準値の100mg/Lから最低値の20mg/Lに改善した。