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Highlighting JAPAN

団地の再生

横浜市洋光台地区では、「団地」を再生させるプロジェクトにより街全体が再び活気を取り戻している。

1954年末頃から始まった高度経済成長によって、若者を中心とする働き手が地方から都市部へと集中するようになり、住宅不足が深刻化した。この問題を解消するため、1955年、政府は特殊法人日本住宅公団 (現在の独立行政法人都市再生機構(UR))を設立し、東京や大阪など大都市圏を中心に「団地」を次々と建設していった。高度経済成長は1973年末ごろには終わりを迎えた。団地は大部分が築後40年以上を経て老朽化が進み、成人した子供たちが団地を去り住民の高齢化が進行するなど、様々な問題に直面している。団地内の店舗が閉店するなど、住民は日常生活で不便を強いられるケースも増えている。

URは、現在約1700の賃貸住宅団地(居住戸数は約74万戸)を管理する中、こうした問題に対処するため団地の再生プロジェクトに取り組んでいる。神奈川県横浜市の洋光台団地は、その一例である。

1970年に入居募集が始まった洋光台団地は、高度成長を支えた京浜工業地帯、隣接する川崎市や東京へとつなぐJR線の駅を中心に開発された。約200ヘクタールの敷地に、URが管理する83棟約3300戸の賃貸住宅団地と、民間のマンションや戸建住宅の約1.1万戸が立ち並び、合計約2万5千人が生活している。65歳以上の高齢化率は30%を超える。

「やはり街の活気が失われつつあります。2011年にスタートした団地の未来プロジェクトの目的は、団地を核として地域全体を活性化することです。地域の魅力を向上させ、若い住民の増加を目指しています」とURの東日本賃貸住宅本部団地マネージャーの尾神充倫氏は言う。

URは、世界的な建築家の隈研吾氏、様々な企業のブランディング戦略を手掛けてきたクリエイティブディレクターの佐藤可士和氏などの有識者で構成する「アドバイザー会議」を2011年12月に、住民の代表者、まちづくりの有識者、神奈川県や横浜市の職員などのメンバーで構成される「エリア会議」を2012年5月に立ち上げた。これらの会議の議論により、地域住民の活動拠点づくり、地域の街並みの改善、異なる世代間の交流促進などの方針が固められた。

方針に沿って、2014年から具体的な取り組みが始まっている。その一つがCCラボ(Community Challenge Lab)である。CCラボは、駅前に建つ団地建物の空き店舗をチャレンジスペースとして期間限定で提供し、グループや個人が地域活性化を目的とした活動を行っている。高齢者のための体操教室、カフェ、コンサート、絵の展示会など活動は多岐にわたり、地域の団体が連携したイベントも数多く実施されている。毎年10月に開催されるハロウィンイベントには地域内外から若者たち3000人以上が集まるようになった。

また、隈健吾氏のデザインによって、木をイメージして団地の壁面を塗り替えたり、団地各戸の外壁に取り付けられた空調室外機置を木材調のアルミパネルで覆ったりするなど、単調だった団地の景色が温かみのあるものへと変わっていった。さらに洋光台の玄関である駅前広場に大きな庇を設置する改修工事も進んでいる。

「洋光台にはまだまだ豊かな人材と空間が存在します。新たに巨額の投資を行わなくても、街の価値を向上させる可能性が残されています。洋光台のプロジェクトを他の団地の再生にも活かし、さらに広げていきたいものです」と尾神氏は語る。

少子高齢化、住民減少などの課題を抱える日本の団地は、日本社会全体の縮図と言える。団地再生の取組がそうした問題に一つの解決策を提示することが期待される。