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Highlighting JAPAN

建築文化の普及と継承

建築模型を保存展示するミュージアム、ここは建築文化再発見の場であり、建築の記憶を未来に繋ぐ場でもある。

2016年6月、羽田空港からモノレールで約15分、東京臨海エリアの天王洲アイルに「建築倉庫ミュージアム」がオープンした。国内外で活躍する建築家の建築模型を保存展示する国内で唯一の施設である。

建築模型は、建築家が空理空論に陥らないために重要な役割を果たすだけではなく、依頼者とのコミュニケーションを円滑にし、建物完成までの一連のストーリー共有を可能にするものである。建築倉庫ミュージアムは、建物一つ一つへの建築家の想いや技術が詰まった建築模型を展示することで、日本の建築文化を記憶し、普及・継承することを狙いとしている。

建築倉庫ミュージアムを運営するのは、美術品やワイン、映像・音楽メディアなどの保存保管を事業の根幹とする寺田倉庫である。同社は、分野問わず、文化的に意義があると判断した新規事業や人材に投資し、その投資を才能の発掘や文化継承の支援にも繋げている。同ミュージアムは、この一環で設立したものである。

建築模型は、海外では多くの美術館が保存展示しているが、日本では建築設計事務所が保管し、役目を終えれば破棄されることも少なくない。日本の著名な建築家でさえ、模型の保管場所の確保は容易ではなく、建築界共通の課題となっていた。

寺田倉庫が建築倉庫ミュージアムを立ち上げたきっかけは、代表取締役の中野善壽さんが知り合いの建築事務所で山のように積み上げられた建築模型に驚き、同社の倉庫で預かる提案をしたことにある。

「実現しなかった建築模型も含め、建築家の細やかな仕事に感動しました。模型を展示して多くの人々に感動していただきたいという思いから、自社の倉庫を活用した新しいミュージアムを発想しました」と中野さんは当時の心境を語る。中野さんの想いは国内の多くの建築家に広がり、約450㎡、天井高5.2mのミュージアムには、現在、隈研吾氏や坂茂氏といった世界的建築家や外国人建築家の模型など、約500点の模型が保存展示されている。

建築倉庫ミュージアムで定期的に開催される企画展のコンセプトは、「留まることなく変化し続ける」というものである。建築家による持ち込み企画を含め、建築家との共同企画に特に力を入れている。

「日ごろ目にする機会の少ない建築模型を公開展示することで、建築家同士の横の関係が生まれたり、ビジネスに発展する可能性があるかもしれません。有名な建築家の下で働く、ナンバー2やナンバー3グループの将来の可能性が広がることも期待されます。日本の建築の魅力を伝え、結果的に建築文化を支える人々の役に立つ空間となればと考えています」と中野さんは語る。

建築倉庫ミュージアムは、寺田倉庫の他の倉庫に展示されていない模型を保管することで、展示作品の入れ替えを円滑にする仕組みを構築し、有名無名を問わず、建築家に広くチャンスを提供する計画である。

来館者は展示模型の情報をタブレット端末やスマートフォンでQRコードを読み取り入手することが可能で、館内の写真撮影も自由に行える。このため、その場で感じたままをSNSに投稿することもできる。

「今後は、海外の建築模型も展示したいと考えています。世界中の建築模型を観て、“おもしろい”、 “あんな建物があればいいね”、“こんな家に住みたい”と想像を膨らませていただける空間にしたいと思っています」と中野さんは語る。