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武術家クリス・オニールさんは忍者「天」(そら)を演じている。
夜、彼は、不確実な人生とカツ丼をこよなく愛し、様々な国を渡り歩いてきた陽気なアメリカ人、「クリス・オニール」となる。そして昼は、17世紀のイギリス人航海士、ウィリアム・アダムスとともに日本を訪れ、将軍・徳川家康から、無双の忍者、服部半蔵を紹介された新米忍者「天」となる。
クリス・オニールさん(30歳)は、「天」でいるときが、もっとも心休まるという。その気持ちを表すかのように、彼は空に向かって飛び跳ね、見事なバク転を披露してくれた。「『天』とクリスは実のところ、非常によく似ています」と言うオニールさんは、名古屋城の本丸御殿付近で、スマートフォンを手にした観光客グループに向かって刀を抜いている。オニールさんは、7人の忍者隊の一員としてそこで働いている。「『天』もクリスも、(国境という)境界線を嫌い、どんな文化にも受け入れられることを望む旅人です。」
オニールさんは日本で受け入れられることによって、「天」というもう一つの人格を得たのであった。
オニールさんは16歳のとき、日本を初めて訪れた。稽古を積んでいた武術の誕生の地を訪れるという、長年の夢を叶えるためだった。
「それはまさに、私を変えた経験でした」と、イギリスをはじめ多くの国々で暮らしてきたオニールさんは語る。「少し喧嘩っ早い子供だった私は、自分を守るために武術を習うことにしたのです。しかし、武術の礼儀と優しさを知るほど、大きく感化されていきました。武術は、忍耐と敬意の真の意味を教えてくれたのです。」
オニールさんが武術から受けた影響は大きく、10年後に彼は日本を再び訪れ、今度は、日本を新たな「故郷」とすることを決意していた。東京で職探しを数ヶ月続けていたある日、東京で知り合った友人から、名古屋の求人広告の話を聞いた。それはまさに、オニールさんのために用意されたかと思うような内容であった——友人たちの悪ふざけでなかったら。
愛知県観光局が掲載したその求人広告は、後方宙返り、木の葉隠れ、手裏剣の術をはじめとする様々な能力を有する人物を募集していた。また、ニコニコと笑う観光客と並んでポーズして写真に撮られることを楽しめる人物でなければならなかった。
「はじめは冗談かと思いました。しかし、問い合わせたところ、本当に忍者を探していると回答が返ってきたのです。『やった!なんて素晴らしい仕事なんだ!』と思いました」とオニールさんは語る。しかし、オニールさんはその時熾烈な競争があることをまだ知らなった。オニールさんによると、およそ230人がその職に志願し、さらに信じがたいことには、志願者の8割が外国人だったというのだ。
今や自らを「天」と呼ぶオニールさんは、面接でも面接官たちに強い印象を残した。そのため、選考を通過した唯一の外国人であるオニールさんのためだけの特別な役が用意された。
オニールさんの仕事は、名古屋城や中部国際空港で毎週開催される忍者ショーへの出演のほか、国内外での活動も含まれる。「服部半蔵は本当にいい人です。彼とはいい友達です。ただ、自分の中では、日本のロビン・フッドである五右衛門の方が好きです。服部にそれは言えませんけどね。」
他の忍者たちと違い、オニールさん自身がそうであるように、「天」は忍術以外の武術を鍛錬してきた。それゆえ、もっとも熟練した術を持つ忍者であり、「天」の主なライバルである月影などに、「天」の献身に対する疑念を抱かせている。
しかし、「天」から「クリス・オニール」へと変わる、プライベートのオニールさんを見れば、彼らの考えはすぐに変わるかもしれない。名古屋の街中で声を掛けられたり、「外人忍者、『天』!」という大きな声援を送られたりした回数は数知れないとオニールさんは言う。
「声を掛けてもらえるととても嬉しいですし、いつも忍者のポーズをとってしまいます」とオニールさん。「この仕事は、まさに私の夢の仕事なのです。毎日ディズニーランドに行っているような感じです。だから、仕事に行くことが嫌だと感じることはまったくありません。『クリス・オニール』から離れて『天』になるのですから。」
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