Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan April 2017 > 科学技術

Highlighting JAPAN

環境負荷の少ない鉄道の開発

鉄道技術者は鉄道の環境負荷低減に取り組んでいる。

国土交通省によれば、2014年度の輸送量当たりの二酸化炭素(CO2)排出量(旅客)は、自家用車が133、航空機が99に対して、鉄道は22となっている(単位: g-CO2/人キロ)。鉄道会社各社は、さらなる環境負荷低減に向けて、様々な技術開発を進めている。

東日本旅客鉄道(JR東日本)の取り組みの一つが、非電化区間における環境負荷低減である。通常、電化区間で鉄道は、車両に設置されたパンタグラフによって架線から電力を取り入れて走行している。一方、非電化区間では主に、鉄道はディーゼルエンジンで走行するので、窒素酸化物や粒子状物質などの排気ガスが発生する。こうした課題を解決するために、JR東日本は、2003年からディーゼルハイブリッドシステムの車両の開発を進め、2007年に、山梨県と長野県を結ぶ、非電化の小海線において世界初の「ハイブリッド鉄道車両」の営業運転を実現させた。

従来の車両では、ディーゼルエンジンの動力を車輪に伝えて駆動させている。しかし、ハイブリッド車両では、発電機を動かすためにディーゼルエンジンを使い、さらに、モーターとリチウムイオン蓄電池も設置されている。発車時は、蓄電池の充電電力でモーターを動かす。加速時にはディーゼルエンジンを起動させ、発電機と蓄電池の両方でモーターを動かす。ブレーキ時には、モーターを発電機として利用し、ブレーキによるエネルギーを蓄電池に貯める。このディーゼルハイブリッドシステムにより、従来と比較し、燃料消費率を約10%削減し、排出される窒素酸化と粒子状物質も約60%低減した。その後、ハイブリッド車両は、長野県、青森県などを走る観光列車や、宮城県の仙石東北ラインの車両として、運行している。

2008年には、JR東日本は車両の床下に大容量のリチウムイオン蓄電池を搭載して、電化区間と非電化区間の両方の走行を可能にする「蓄電池駆動電車」の開発を始めた。これは、電化区間では通常の電車と同様に架線からの電力で走行すると同時に主回路用蓄電池の充電を行う。ブレーキ時の回生電力は基本的には主回路用蓄電池にて回収する。非電化区間ではパンタグラフを降下させ主回路用蓄電池からの電力のみで走行する。

長期にわたる試験走行を経て、「ACCUM」という愛称が付けられた蓄電池駆動電車は、2014年3月には栃木県の烏山線 (EV-E301系)、2017年3月には秋田県の男鹿線(EV-E801系)で営業運転を開始した。

「CO2と騒音を減らす環境負荷低減はもちろん第一の開発目的ですが、それ以外のメリットもあります」とJR東日本車両技術センター課長の外崎昌志氏は語る。「ハイブリッド車両も蓄電池駆動電車も、インバーターからモーターを経て車輪へと至る駆動システムは通常の電車と同じであり、従来の気動車にあるエンジン・変速機などの機械部品の削減によるメンテナンスの省力化につながります」

蓄電池駆動電車は非電化区間の終着駅に着くとパンタグラフを上げ、通常よりも大きな電流を流せる専用の架線を通じて、約10分強をかけて急速充電を行う。このフル充電によって、非電化区間をモーターで走れるようになる。消費電力を抑えるため、室内照明は全てLED化されている。車両には前部と後部に台車が設置されている。非電化区間の走行を可能にするリチウムイオン蓄電池は、それらの台車と台車の間の、車両の床下に搭載されている。

「開発で最も困難だったのは、重量に対する補強対策です。通常では載せないほどの重量物である蓄電池搭載に対する車体の強度確保のために様々な補強が必要となります。しかし、一方で車体の軽量化も目指さなければならず、このように相反する目標を両立させるための車体構造の最適化を実現するのに苦労をしました」と外崎氏は言う。

JR東日本は、2020年度に鉄道事業のエネルギー使用量を2013年度比で6.2%削減する目標を掲げている。その達成に向けてJR東日本は、さらに環境負荷を軽減する車両の開発を進めていく予定である。