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Highlighting JAPAN

東京と京都の迎賓館

日本には東京と京都にそれぞれ迎賓館があり、海外からの賓客をもてなす舞台として活用されている。その二つの迎賓館が原則的に通年の一般公開を始める。

迎賓館赤坂離宮

東京の迎賓館赤坂離宮(以下、迎賓館)は1909年、約120,000平方メートルの敷地内に、当時の皇太子の住まい「東宮御所」として建設された。東宮御所は、ネオ・バロック様式の建築物だ。日本初の西洋風宮殿建築を完成させるために、当時の一流の建築家、美術工芸家が総力を挙げて建設した。

「東宮御所が建設されたのは、日本が西洋の文化を積極的に取り入れ、当時の一等国の仲間入りをしようとしていた時期でした」と山崎日出男・前迎賓館館長は言う。「日本でも優れた西洋建築を作れる技術があることをアピールする目的もあったのではないでしょうか」

東宮御所の管理は第二次世界大戦後、皇室から政府に移管され、国立国会図書館などの公的機関に利用された。しかし、日本と海外との関係が緊密化し、外国の賓客を迎えることが多くなったため、政府は建物を改修して迎賓館とすることを決めた。改修は1968年から約5年かけて行われ、1974年に現在の迎賓館として完成した。

迎賓館は1975年から夏に短期間一般公開していたが、今年4月から、接遇等に支障がない範囲で可能な限り公開されるようになった。

「政府は現在、観光振興に力を入れており、国の施設の一般公開を進めています」と山崎氏は言う。「迎賓館もその一貫として、国内外の皆様にご覧頂けるよう一般公開することになったのです」

現在、迎賓館で公開されているのは、前庭、主庭、本館(旧東宮御所)、和風別館(游心亭)だ。重厚な花崗岩で造られた地上二階、地下一階建ての本館は、完全なシンメトリーの建築となっている。屋根は緑青で覆われており、その中央部には、左右対称に一対ずつ、青銅製の甲冑武士が鎮座している。本館と正門との間には前庭広がり、美しく剪定された142本の松が日本的な雰囲気を醸し出している。なお、2009年に本館、正門、主庭の噴水池などの建造物が国宝に指定されている。

本館では4つの部屋が一般公開されている。来館者が最初に訪れるのが「彩鸞の間」だ。大鏡と大理石の暖炉の脇に「鸞」と呼ばれる架空の鳥をデザインした金色の浮彫りがあることが、その名の由来である。部屋の装飾は19世紀初頭、ナポレオン1世の時代に流行したアンピール様式だ。部屋全体の壁や天井に、武器、楽器、スフィンクス、甲冑などの金箔の装飾が施されている。

次の「花鳥の間」には、天井にフランス人画家が描いた花や鳥の絵が36枚、張り込まれている。また、壁には30枚の楕円形の七宝の額が飾られており、それぞれには鴨、キツツキ、ニワトリ、鳩などの鳥や草花が描かれている。壁は木材で板張りしており、部屋全体が落ち着いた雰囲気になっている。

「朝日の間」は、天井に描かれた「朝日を背にして女神が香車を走らせている姿」が特徴だ。部屋の周囲にはノルウェー産の大理石の円柱が立ち、床には47種類の紫色の糸を使い分けて桜花を織った緞通が敷かれている。また天井の四隅にはライオンの頭の絵が描かれているが、これらのライオンは、部屋のどこに立っても、見る者を凝視しているように見える「だまし絵」の技法で描かれている。

来館者が最後に訪れる「羽衣の間」には、天井に謡曲の「羽衣」の景趣をモチーフにした約300平方メートルの大きな絵画が描かれている。壁には楽器、楽譜など音楽に関わるレリーフが施されている。

「迎賓館は西洋風宮殿建築ですが、日本的要素が庭園や建物に取り入れられています」と山崎氏は言う。「そうした西洋と日本の融合は、外国人のお客様も非常に興味深くご覧頂いています」

京都迎賓館

京都迎賓館は日本の歴史、文化を象徴する京都で、海外からの賓客を迎えるための施設として2005年に開館した。敷地の広さは20,000平方メートル。京都御苑内に位置しており、古くは公家の屋敷が建っていたと言われている場所だ。

「京都迎賓館は『現代和風』の創造を目指して設計されました」と山崎氏は言う。建物の外観は伝統的な日本建築だが、構造は鉄筋コンクリート造りだ。

また、庭園と建物が一体となって調和するよう設計されているので、どの部屋からも庭園の景色が楽しめるようになっている。これが古くから日本人の住まいに貫かれてきた伝統「庭屋一如」の思想である。

松や桜など様々な樹木が植えられた庭園には大きな池があり、赤、金、黒など色とりどりの鯉が約140匹、優雅に泳いでいる。池の底に敷かれている大小様々な石は、京都迎賓館の建設中に出土したものだ。池には16世紀に京都の鴨川に架かっていた五条大橋の礎石と伝わる円筒形の石も立っている。池に架かる廊橋からは、京都御苑の木々が借景となった庭園を見渡すことができる。

この庭園を囲むように配置されている各部屋にも、京都の歴史や文化を楽しめる見所が多い。その一つ、京都迎賓館の中ではロビーに位置付けられる「聚楽の間」には、京都の伝統工芸である「京指物」の技術が使われた椅子が並んでいる。鮮やかな赤色の椅子の座面は「西陣織」で織られたものだ。

「夕映の間」には、東側と西側の壁面には「綴織り」の技法で作られた織物が飾られている。それぞれ縦2.3メートル、横8.6メートルの大きさだ。東側の作品には、京都の東にある比叡山を月が照らす様子が、西側の作品には、京都の西にある愛宕山に夕日が沈む様子が、織られている。

「藤の間」は京都迎賓館の中で最も大きい部屋で、晩餐会や歓迎式典の会場として使用される。壁面には、花言葉が「歓迎」である藤を中心に、39種類の草花が描かれた綴織りによる織物が飾られている。縦3.1メートル、横16.6メートルにもおよぶこの織物は、約15名の職人が約1年7ヶ月間をかけて完成させた。天井には、京指物で作られた骨組みに手漉きの本美濃紙を貼った照明が設置されている。

「桐の間」は、和食を提供する晩餐室となっている。この部屋の一番の特徴は、部屋の中央に置かれた長さ12メートルの黒い座卓だ。最大24名の会食が可能なこの座卓には、漆が塗られており、鏡のような美しいつやを生み出している。

京都迎賓館は7月下旬に、前述の4部屋と庭園が一般公開される予定だ。一般公開を控え、春に12日間にわたって京都迎賓館では試験公開が行われ、約21000名が参観した。

「参観者の方のほとんどが非常に満足をされていました」と山崎氏は言う。「たくさんの方々に京都迎賓館で、京都の伝統文化を堪能して頂きたいです」