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Highlighting JAPAN

 

文化財を観光に活かす

小西美術工藝社代表取締役社長デービッド・アトキンソン氏インタビュー


デービッド・アトキンソン氏は、380年の歴史をもち、国宝などの修復を手がける東京の小西美術工藝社の代表取締役社長である。銀行アナリストとしての職を引退した彼がこのポストに就いたのは、小西美術工藝社が倒産の危機に瀕していた2009年のことだった。その7年後、同社の財務状況は健全化し、また、アトキンソン氏は観光業の振興に関わる各種の政府委員会に加わるようになった。うち解けた雰囲気のインタビューで、アトキンソン氏は彼が率いる会社の業務内容と日本がどのようにしてその文化的財産をさらに活かすことができるのかについて語った。

小西美術工藝社はどのような仕事をしているのですか?

当社では、主に神社仏閣を修復していますが、そのほとんどは神社です。正規雇用の職人は65人おり、通常は日本全国で同時に進行するおよそ20件のプロジェクトに携わっています。当社の事業はほとんどが国の指定文化財に関わるもので、入札が主流です。私たちが手がけている漆塗りや彩色、錺金具の修理は極めて専門的な仕事ですが、従業員2、3人の小さな会社も経験が無くても入札に参加して低価格で落札することが多いです。それで困ることもあります。古くなった漆を建物から落とす時に、私たちは手で作業を行います。この作業は手の感覚が重要で、慎重で時間のかかる技術が求められます。安く落札した会社は、サンダーなどを使って、漆の下の木材を削ってしまうのです。建物の修復は、原則良くても前回の修復レベルを維持するしかできませんので、私たちの仕事は次回の修理をする職人に挑発的な仕事レベルを残す事です。

従業員はどのようにして技能を習得するのですか?

当社では一時期、大卒を採用していましたが、ほとんど全員が辞めていますので、大卒採用はやめました。現在ではほとんどの場合、高卒を中心に採用しています。技術は、重要文化財の修復現場で親方の下で習得し、経験を重なる事で練磨されていきます。国指定文化財が指定文化財である理由の一つは、今では一般的に用いられていない在来工法が守られているからです。技法を革新するというのは、修復作業の意義そのものを否定することになります。日本では、技能伝承の重要性をしばしば耳にします。言うのは簡単ですが、技術の伝承が実際に意味することは何かと言えば、若い人を雇い、現場に出て、仕事をこなしてもらうことなのです。

様々な政府委員会のメンバーをされていますが...
文化財修理にもっと予算を獲得するためにも、政府に働きかける目的で、昨年、観光産業に関する本を書いたところ大ベストセラーになりました。その結果、さまざまな政府委員会のメンバーになりましたが、その中で最も重要なのは「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」でした。文化財だけで観光戦略が成功するものではありませんが、観光戦略がなければ文化財を維持する戦略はかなり難しくなります。日本の多くの文化財では、しっかりとした解説がなく、座る場所、飲食できる場所もなく、文化的イベントも少ないのですから、リピーターも少ないのです。安い入場料をとって観光客に満足度を上げる努力が足りない文化財が少なくないのです。所有者が努力して入場料を上げるよりは、国民がお金を出して維持すべきだと言う意識は、委員会で最も議論となるテーマの一つです。しかし、こうした考え方は、変わらざるをえないでしょう。日本が、2020年までに新たに4,000万人のインバウンド旅行者を増やすという目標を達成するには、変わるしかないのですから。