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Highlighting JAPAN

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日本の魚

魚とともに歩んできた日本の食文化(仮訳)

小泉武夫氏インタビュー

2013年12月にユネスコ無形文化遺産にも登録された和食。様々な食材を繊細な感性で料理に仕上げる和食文化のなかでも、魚は特に重要な存在だ。和食と魚について幅広い知識をもつ発酵学者・食文化論者の小泉武夫氏にお話をうかがった。

――日本は魚とどのようにかかわってきたのでしょうか。
日本は周囲を海で囲まれた海洋国家です。昔から魚を捕る機会は多く、縄文時代中期(約5000-4000年前)からすでに魚食をしていた記録が残っています。親潮と黒潮の流れが小魚を沿岸近くに運び、それを追って大きな魚たちが集まってくるので、豊かな漁場が沿海に数多くありました。

海から内陸に視線を移すと、日本は国土の中央に山脈が走っており、年間2000ミリ近い雨量があります。大量の雨は山脈で分かれて太平洋側と日本海側に多くの川を形成しながら流れ落ちます。これによって清流にアユ、ウグイなどが育ち、淡水魚にも恵まれています。さらに稲作民族なので水田のために用水池や沼があり、そこにも魚がいるという状況であり、今から100年ほど前まで日本人はほとんど肉食をせず、魚を主な動物性たんぱく源としていました。

――和食においての魚の存在はどのようなものですか。
和食は7つの主材と1つの副材で成り立っています。主材とは根菜類、菜っ葉、青果、山菜、大豆を主とする豆類、海藻、米を主とする穀類です。これに副材である動物性たんぱく質、つまり魚・肉・卵などが加わります。

動物性たんぱく質は体内でアミノ酸になり、スタミナ源として機能しますが、栄養面では主材の大豆の植物性たんぱく質でも十分なので、副材はなくても和食は成り立ちます。ただ、魚は動物性たんぱく質のなかでも日本人が長い歴史の中で食べ続けてきたという点で、和食文化には重要な存在です。動物への畏敬の念と愛護精神が強い日本人は、飢饉のときですら四足動物を食べなかったといわれる民族ですが、魚だけは命をいただくことへの感謝を持ち、はらわたや骨まで無駄にせず食べてきたのです。

――UMAMIが世界共通語になりつつありますが、魚は旨味文化にどのようにかかわっていますか。
生理学的に味覚は甘い、辛い、酸っぱい、苦い、しょっぱいの五味だと長くいわれてきましたが、今ではそれに旨味が加わり六味とされています。大豆を発酵させるとタンパク質がグルタミン酸を主体とするアミノ酸に変化し、魚はタンパク質がイノシン酸主体の核酸に変化します。この2種が合わさると相乗効果で人間は何倍にも旨味を感じることがわかっています。この旨味を世界に教えたのが日本人であり、だからこそUMAMIが世界共通語になってきているのだと思います。

――日本の魚の特徴として挙げられることは何でしょうか。
第一に、魚の種類が大変豊富であるため、「旬」に合わせてその時々でもっともおいしく、安く、栄養価がある魚を様々な調理法で楽しめるという点です。第二に、海淡水魚ともに新鮮な魚を生食する点です。第三に、魚によく合う調味料「醤油」の存在を挙げることができます。大豆を発酵させて造る醤油の旨味ほど魚に合うものはありません。

日本では、現代の子どもは魚を好まないともいわれますが、それは小さな頃から大人がしっかりと魚を食べさせる習慣をつけないから。子どもたちが今食べているものの影響は30年後に表れます。小さいうちから魚をはじめ大豆や野菜が主体のヘルシーな和食をもっと食べさせるべきだと声を大にして言いたいです。

 



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