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Highlighting JAPAN

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日本のヘルスケア

森への一歩

健康と歴史を求めて熊野古道へ(仮訳)




「熊野古道」として知られる歴史的な網状の古道は西日本の山がちな紀伊半島にある。千年以上もの間、身分を問わずさまざまな人々がこの道を歩き、半島南部にある和歌山県熊野地方の社寺を巡礼してきた。

2003年、世界遺産に指定されたことで国内外から注目され、熊野古道の魅力が広く知れ渡ると地元の人たちは大喜びした。ところが、観光客の数は急増したものの、人々の多くは日帰りで、古道を30分以上歩く人は稀だった。

運動療法と運動生理学を専門とする木下藤寿氏は、同年早速「熊野で健康ラボ(ケンコーは健康、ラボは研究室の意味)」というNPO法人を立ち上げた。熊野古道にはすでに3つの魅力、自然と歴史、そして文化があった。しかし木下氏はさらに4つ目の魅力を広めたいと思っていた。それが古道をトレイルウォーキングすることで得られる健康だ。

トレイルウォーキングが体にいいことは感覚的に理解できるかもしれないが、木下氏はこれまで10年以上に渡ってそれが実際にどういった効果があるのかを示す科学的なデータを集めてきた。彼のNPO団体は、運動レベルに応じた肌の温度変化や、根っこが飛び出したでこぼこ道を歩くことの精神的及び筋肉の刺激、内臓脂肪の減少などを計測してきた。

ある時、働き過ぎで燃え尽きた30歳の男性に出会って、調査データで証明するまでもなく、木下氏は自分の目でトレイルウォーキングの総合的な利点を確かめることができたという。

「彼に最初に会った時、体調が悪いのは見ただけで明らかでした」と木下氏は思い返す。「ところがしばらく樹々の中を歩いているうちに、彼の顔色はみるみる良くなっていって、表情もずいぶんと明るくなっていたのです」。その後木下氏は自分でも丸一日や数日間のウォーキングを繰り返すうちに、自らトレイルウォーキングの健康効果を体感し、これはすべての人のためになると彼は確信した。

木下氏のツアーはポジティブな表現に溢れている。例えば、事前に段差に注意するという話はしても、山道を歩いている時はウォーキングを楽しむことに専念してもらうため、できるだけ「気をつけてください」とは言わない。ウォーキングする人たちが酷使するももの筋肉を伸ばすのにはちょうどいい道の傍のガードレールのことは「ストレッチボード」と呼ぶ。ウォーキング中に彼はこのようなやり方が参加者に自信を与え、より楽しくトレッキングできると考えている。

訪れる人たちが森の中をウォーキングすることで古道の自然の美しさに浸り、より長く熊野に滞在することを楽しんでくれれば、それは地元のビジネスのためにもなるとも考えた。「健康と観光を促進して、地元の経済も刺激しようとしているという意味では、私たちは珍しい団体です」と木下氏は話す。「ヘルスツーリズム」のコンセプトで、NPOは地元の企業と協力して「ステイ&ウォーク」のパッケージツアーを組み、定期的な健康維持と自然保護のためのウォーキングも主催している。彼のNPOは、ウォーキングをガイドする30人の「熊野セラピスト」を育成した。彼らは栄養と運動、そして地域の歴史と文化の専門家である。

これらの努力の成果は、宿泊者数の増加という効果で表れ、プログラム開始から最初の2年で増加し、その後も維持している(熊野本宮観光協会調べ)。他府県も注目していて、木下氏は現在沖縄県から北海道までの同じような取り組みをしようとする担当者たちと協力していると言う。熊野は日本以外でも注目されており、韓国からは、過疎に悩む農村地方の活性化に役立てようと代表団が訪れたという。

木下氏によれば、海外から熊野古道を訪れる観光客の数はここ10年で20倍近くに増えた。彼はこれからももっと多くの人が日本中、世界中から訪れ、熊野古道を楽しく歩いて健康になり、その自然豊かで文化的な風景の恩恵を受けてもらいたいと願っている。



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