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Highlighting JAPAN

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特集環境に優しい次世代交通システム

環境に優しい次世代交通システム(仮訳)

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今年6月20日から22日まで、ブラジルのリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)において、日本政府は「緑の未来」イニシアティブを実行していくことを明らかにした。その柱の一つが、「環境未来都市」構想の成功事例を、世界に発信していくことである。

「環境未来都市」構想とは、いくつかの都市・地域を環境未来都市として選定し、そこで、環境問題や高齢化社会など人類共通の課題に対する解決策を生みだし、それを国内外に普及し、需要拡大、雇用創出を目指すものだ。

「環境未来都市」構想では、環境と高齢者に優しい移動手段の普及を、重要なテーマの一つに掲げており、今年、「環境未来都市」に選定されたそれぞれの都市においても、電気自動車、超小型モビリティ、カーシェアリングといった移動手段による、具体的な行動計画に取り組んでいる。

「環境未来都市」の選定者でもある、石田東生筑波大学教授に、日本の都市と移動手段の特徴について話を伺った。

「100年前から鉄道を中心としたまちづくりが行われた結果、日本の大都市は、鉄道網が非常に発達しました。東京を例に挙げると、環状線である山手線から放射状に鉄道が延び、それに沿って市街地が形成されました。都心に通勤するサラリーマンの90%以上が鉄道を利用しています」と石田教授は言う。

人が同じ距離を移動する場合、少人数しか乗ることが出来ない自動車よりも、多くの人を運べる鉄道やバスといった公共交通を利用するほうが、一人当たりの二酸化炭素(CO2)排出量が少ない。生活圏を都心に置く人々は、鉄道沿線に住み、駅周辺で買い物をする。その結果、人の移動に伴うエネルギー消費が少ない都市構造になるのだ。「東京、大阪、名古屋といった日本の大都市は、世界に冠たる『環境に優しい』都市と言えるでしょう」と、石田教授は言う。

一方、郊外で暮らす人々の生活には自動車は欠かせない。車が2台以上ある家も珍しくなく、日本においてもモータリゼーションは進展している。

「近年、CO2の排出量や、『モビリティ・デバイド』が深刻化しています。『モビリティ・デバイド』とは、自動車を保有する人と、保有しない人の生活の格差を表します。自動車を保有しない人、特に高齢者にとって、買い物や病院に行くことが非常に不便な生活になっています。これは日本だけではなく、世界的な問題でもあります。環境に優しい移動手段が普及することにより、CO2の削減だけでなく、高齢者も積極的に社会に参加できる都市になることを期待しています」と、石田教授はさらに加える。

まちづくりのモデルとして世界に貢献する、環境未来都市の役割は大きい。今月の特集記事では、中でも、日本国内外で行われている、日本の次世代の交通システムに関する取り組みを紹介する。


ライトレールでコンパクトシティに:富山市

富山県富山市(人口約42万人)のシンボルとも言える、富山ライトレールが運営を開始したのは2006年。利用者の減少が続いていた鉄道路線の富山港線(約8km)を、バリアフリー化し、デザインや機能面にも優れた次世代型路面電車(LRT)の路線に転換して、富山ライトレールは開業した。

その背景として、富山市は、過度な自動車依存と郊外の開発による居住地の分散化が進み、環境や高齢者に対する負荷が増加していた。また、居住地が分散することで、道路や下水道維持などの行政コストも上昇していた。

そこで、市は、公共交通を活性化させることで、その沿線に住居や商業施設など都市の機能を集積させる効率的で持続可能なコンパクトシティを目指すことを決め、その計画の一環としてLRTの導入を決めたのだ。

開業後、富山ライトレールは、平日で利用者数が約2.1倍、休日で約3.6倍に上昇した。また、日中帯における高齢者の利用も増加した。これらは、LRTになり、運行の頻度が高まったこと、バリアフリーとなったことが要因と考えられている。

また、LRT利用者のうち、自動車利用者からの転換率は約12%となり、沿線で年間436トンの二酸化炭素排出削減につながっている。

このような取り組みが評価され、今年6月、OECD(経済開発機構)がとりまとめた「コンパクトシティ報告書」において、富山市は、オーストラリアのメルボルンやカナダのバンクーバーなどと並び、コンパクトシティの先進都市5都市の一つとして紹介されている。


電気自動車の普及:横浜市

神奈川県横浜市(人口約370万人)は、2020年までに温室効果ガスを、1990年比で25%削減する目標を掲げ、その方策の一つとして、市全体の温室効果ガス排出量の約20%を占める運輸部門への対応に力を入れている。具体的には、現在、横浜市内には約1000台の電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHV)が登録されているが、2015年までに、EV2000台とする目標を掲げ、購入者への補助金交付などで、EV等の普及を推進している。2011年度は、358台のEV等の購入に補助をした。さらに、EV等を充電するための設備を設置し、一般開放する事業者にも設置費用の一部を補助している。

また、商店街、学校、観光地が集まる山手・元町エリアでは、日産自動車との協働により、二人乗り超小型モビリティ実証実験が、昨年10月に行われた。二人乗りの超小型モビリティが国内の公道を走るのは、この時が初めてであった。実際に乗車した地域住民や観光客からは、「小回りがきき、運転しやすい」、「坂道でも問題なく走れる馬力がある」といった感想が聞かれた。

横浜市と日産自動車は「世界で一番EVが走りやすい街にする」ことを目標に、持続的なモビリティ社会の実現を目指している。


電動アシスト自転車の共同利用:北九州市

北九州市(人口約98万人)は、1960年代、工場からの排水や煤塵に苦しむ「公害の町」であったが、今や、そうした公害を様々な規制や環境技術によって克服した都市として知られる。

様々な環境対策を行っている北九州市が、2010年からスタートさせているのが電動アシスト自転車の共同利用システム「シティ・バイク」だ。会員登録またはワンデーパスポートを購入すれば、市内10カ所の「シティ・バイク」専用の自転車置き場で、誰でも電動アシスト自転車を使うことができる。現在、「シティ・バイク」専用の自転車置き場には、116台が用意され、24時間、いつでも、どこでも貸出、返却可能だ。自転車置き場には太陽光発電が行われ、自転車の充電や照明に使われている。世界中で自転車の共同利用システムが行われているが、全てが電動アシスト自転車であるのは、世界中で北九州だけと言われている。

北九州市が電動アシスト自転車を採用した理由は、北九州市が坂道の多い町であるからだ。電動アシスト自転車は、ペダルを踏むだけで、モーターの力で、高齢者でも坂道を楽に上ることが可能である。

海外からの視察も少なくない。今年5月に北九州市を訪れたスウェーデンのストックホルムの副市長は、「シティ・バイク」に高い関心を寄せ、ストックホルムでの導入にも興味を示した。


未来型ドライブ観光:五島市

長崎県の西方約100kmに浮かぶ五島列島は、大小140の島々からなり、一年中、釣りやマリンスポーツを楽しめる。また、五島列島には、神社仏閣、城跡など歴史的な遺産も数多く、中でも、カトリック教会は、世界遺産の暫定リストに登録されている。毎年、国内外から約20万人の観光客が訪れ、夏の海水浴のシーズンは特に賑わう。

五島列島では、環境負荷の少ない「未来型ドライブ観光」の実現を目指し、現在、電気自動車(EV)と高度道路交通システム(ITS)を活用した「長崎EV&ITSプロジェクト」を実施している。現在、五島列島にある約140台のEVのうち、レンタカーが80%以上を占める。EVレンタカーの利用は、昨年度だけで、のべ6700台以上に上った。五島列島で一番大きい、福江島は一周約100kmの島で、1回の充電で島をほぼ一周できる。

「夏休みの期間中は、EVが足りなくなるほど、人気です」と、レンタカー業を営む「レンタカー椿」の橋本洋子社長は言う。「環境に良いし、運転しやすいし、EVの評判はとても良いです。リピーターも多いですよ」

さらに、今年10月から本格的に運用が開始されるITSスポットでは、地図や観光案内だけではなく、災害や飛行機の運航状況といった情報が、EV車内のモニターに自動的に表示される仕組みになっている。


とよたエコフルタウン(仮訳)

今年5月、愛知県豊田市(人口約42万人)に「とよたエコフルタウン」(以下、「エコフルタウン」)がオープンした。「エコフルタウン」は、豊田市の低炭素社会に向けた取り組みを国内外に紹介する「ショーケース」だ。

「エコフルタウン」の「パビリオン」では、映像やクイズを通じて、豊田市の取り組みや、環境技術を学ぶことが出来る。

また、「エコフルタウン」には、太陽光発電、蓄電池、HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)が装備された、最新の「スマートハウス」のモデルハウスが建てられている。市内2カ所では、このスマートハウスと同じ機器が装備された住宅67戸が順次販売されており、実際に人が住むことによる実証実験が行われている。

さらに、「エコフルタウン」にはITS設備が整備されており、登録された車両が接近すると自動的に降下する「ボラード」(車止めのポール)、必要な時にバスを呼び出す「デンマンドバスシステム」などの技術を見ることが可能だ。

オープンから2ヶ月ほどで、「エコフルタウン」には市民に加え、国内外の政府、自治体、企業、大学の関係者が数多く訪れている。特にITSとスマートハウスに対する関心が高く、見学者からは「実際に購入するにはどうすれば良いのか」といった質問も出されている。

「とよたエコフルタウンは、豊田市が目指す低炭素社会の取組を、国内外へ発信する施設です。最新の環境技術を活用し、“無理なく・無駄なく・快適な暮らし”をここから世界へ広めていきます」と太田稔彦豊田市長は言う。

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