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Highlighting JAPAN

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特集日本のテーマパークを支えるハードとソフト

来場者が「ネコじゃらしに」なる(仮訳)

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北海道旭川市にある旭山動物園は、独自の行動展示によって動物の生き生きとした姿を引き出し、世界中から観客を集めている。入園者数は年間300万人にのぼる。現園長である坂東元氏に松原敏雄が聞いた。

──旭山動物園は行動展示の世界的なパイオニアですが、行動展示とは、どういったものでしょうか。また、何故導入しようと考えたのでしょうか。

坂東元氏:行動展示とは動物をリラックスさせることで本来の生態やそれに伴う活動を誘発させて、お客さんに見せるように工夫した展示です。 1997年にライオンやヒョウが新しい檻に引っ越すことになったのですが、ネコ科の動物は夜行性で、お客さんが動物園を訪れる昼間は寝ているので、従来の展示方法では動物本来の暮らしぶりを感じとることができないと考えたのです。

そこで、まずは寝ている猛獣を面白く見せられる空間を作ろうと思いました。ヒョウで言えば、最もリラックスできるのは高い場所なのです。そこに居心地のいい空間を作ってやれば、ヒョウは絶対にそこを選んで寝るだろうと思った。それを下から見上げれば、今まで目にしたこともないお腹や足の裏を見ることができます。そうやって従来にない猛獣展示の形を導き出していきました。

距離感にもこだわりました。世界中でトレンドになっている生態展示では、檻ではなく奥行10m前後の堀で動物と人間とを遠く隔てています。しかし、10m離れたところでライオンがいくら吠えても、お客さんは怖くないから反応しません。飼育動物にとって、無刺激ほどの苦痛はありません。生態展示によって生息環境を再現しても、ライオンが実際に狩りをできるわけではないのです。生態展示は彼らにとって、刺激の一切ない独房になりかねません。

当園では動物園は人工空間であると割り切って、生態展示とはまったく逆に動物と人間との距離を圧倒的に近づけています。ライオンの檻も安全性を確保できるギリギリの距離に設置していますし、ガラス越しに見合った場合はまさに間近で対峙することになります。ライオンが吠えれば、当然ながらお客さんはびっくりします。吠えるという行動に人間がストレートに反応することを、ライオンは感じとれるわけです。飼育動物には気晴らしのできる環境が必要ですが、当園ではお客さんを動物に対する「猫じゃらし」にする、つまり気晴らしの対象にしているのですね。

──生き生きとした動物の姿を見せるために、どのように工夫なさっているのですか。

動物らしさを引き出すには、動物の習性、身体能力、思考パターン等を自然に発揮できる空間を作る必要があります。例えばペンギンのプールは、深さに変化をつけたうえで、岩礁や人間が中から見上げる水中トンネルを入れて複数の障害物を設けています。ペンギンは鋭角的な動きをしますから、そのように変化に富んだ水中だと飛び回るように泳ぎます。追いかけっこが始まると、ものすごい動きになります。それに肉食のペンギンは本能的に動くものに反応しますから、水中トンネルを通る人間のことを常に見ていて、目と目が合ったりもします。これも人間を猫じゃらしにするという組み合わせなんですね。

当園の施設は、人間と動物の双方が互いの姿を対等に見られる仕組みにしているところがポイントです。人間は様々な角度や場所から動物を見ることができますが、動物だって人間を観察しています。動物が主体的に活動できる空間を作ってあげると、彼らにとって人間は脅威の対象ではなく興味をもって観察する対象になります。結果として、彼らは人間に見られてもストレスを感じることなく、通常の生活を続けます。だから、行動展示というのは、営みの展示、暮らしの展示なのです。

──今後の具体的な目標をお聞かせください。

地元である北海道の生き物たちをもっと充実させたいというのがひとつ。もうひとつは、飼育動物たちの故郷に恩返しするためのプロジェクトを推進することです。その具体例として、ボルネオにオランウータンとゾウのレスキューセンターを創設する準備を進めています。森林破壊がこのまま続けば、彼らはあと20〜30年で絶滅すると言われています。このレスキューセンターによる保護活動を通して彼らの絶滅を防ぐことができたなら、うちの動物園が存在する意味が生まれるのではないかと思っています。

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