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February 2024

ビフィズス菌生菌末の製造技術及び応用製品の開発

  • 機能研究のためにビフィズス菌を培養する様子
  • ビフィズス菌を冷凍保管している様子
  • ビフィズス菌の一種
  • ビフィズス菌投与による乳児の湿疹/アトピー性皮膚炎の予防効果を表すグラフ
    (Enomoto et al. Allergol Int. 2014; 63(4): 575-85.より作図)
  • ビフィズス菌の培養装置
機能研究のためにビフィズス菌を培養する様子

赤ちゃんからお年寄りまで、人々の健康な生活に欠かせないビフィズス菌は、室温で粉の状態では長く生存していることが難しく、これまで用途が限定されてきた。しかしながら、日本の企業の研究者が、高菌数で生きたままの粉末を作る技術を開発した。ビフィズス菌生菌末(きんせいきんまつ)の製造技術である。それによって、ビフィズス菌を長期間安定した状態で保つことができると同時に、その用途も拡大した。その技術の概要について紹介する。

生まれたての健康な赤ちゃんの腸はビフィズス菌で守られている。そして母乳はビフィズス菌を増やす成分を多く含み、腸内で増やしてくれる働きを持っている。ビフィズス菌は腸内で酢酸(さくさん)を生成することで健康を阻害する悪玉菌の増殖を抑制するほか、免疫機能を調節してアレルギー症状を緩和したり、認知機能の維持に貢献したりすることなどが報告されており、全身の健康維持に様々な好影響をもたらす善玉菌だ。しかし、ビフィズス菌は室温で粉の状態では長く生きられないという特質があるため、これまでヨーグルトや飲料など賞味期限の短い食品からしか摂取することができなかった。

ビフィズス菌の一種
ビフィズス菌投与による乳児の湿疹/アトピー性皮膚炎の予防効果を表すグラフ(Enomoto et al. Allergol Int. 2014; 63(4): 575-85.より作図)

この状況を打開したのが、森永乳業株式会社の研究者が開発したビフィズス菌生菌末の製造技術である。森永乳業株式会社は、100年以上前から人工乳・育児粉乳の製造に携わってきた。かつての育児粉乳は母乳よりも牛乳に近い成分であり、母乳で育つ乳児と育児粉乳で育つ乳児では健康状態に大きな差があった。その原因を研究する過程で、母乳で育った乳児の腸内にはビフィズス菌が多く、ビフィズス菌が乳児の健康状態に大きく関わっていることが解明され、その研究が始まった。

ビフィズス菌の培養装置

そのビフィズス菌を含む育児粉乳を作るにあたり、最大の壁となったのは、先述のビフィズス菌が室温で粉の状態では長く生きられないという特質だった。これを克服するため、1990年代初頭から、ビフィズス菌を生きたまま粉末にするための研究がスタートした。粉末を作るためには、菌を培養する技術と乾燥させる技術の両方が必要となる。試行錯誤を幾度となく繰り返した結果、1990年代の後半には室温でも長期間安定する1gあたり500億個以上の高菌数の菌末製造技術を開発し、商品化に成功した。更に、その製造技術をベースとして、様々な製品への応用技術が確立された。例えば、生きたままのビフィズス菌が含まれた育児用粉ミルクや、成人対象のサプリメントなどを製品として展開することが可能となった。長期間保存可能なビフィズス菌の菌末が開発されたことで臨床試験などの機能研究も進み、乳幼児の健康を守る働きも実証された。これらの成果を含め、低出生体重児の健全な成長にも寄与しているこのビフィズス菌生菌末の製造技術と応用製品の開発に当たった森永乳業株式会社の研究者3名は、「令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰」で科学技術賞を受賞した。

ビフィズス菌を冷凍保管している様子

現在、極低出生体重児の健全な成長をサポートするために国内外150か所以上のNICU(新生児集中治療室)にビフィズス菌生菌末を提供しており、医師の監督のもと利用されている。そのほか、ビフィズス菌の体質改善に対する効果に着目した製品開発に向けての新たな研究も進んでいる。同社は、今後とも、幅広い年代層の健康に貢献する新たな製品の展開を図るという。ビフィズス菌のさらなる活用が進みそうだ。