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February 2024

高付加価値の製品を生み出すキルギスの一村一品運動

  • キルギスの羊毛フェルトを使った人形。
    Photo: JICA
  • 首都ビシュケクのアンテナショップでもあるOVOPセンター。買い物客の6割は地元の人。質の高い商品を求めてやってくる。
    Photo: JICA
  • 自然な羊毛の色を生かした羊の人形 Photo: JICA
  • 羊毛を刈っている様子
    Photo: JICA
  • エスパルセットという標高の高い地域で育つ植物を蜜源とした白い蜂蜜。 透き通るような白さを持ち、癖がない濃密な甘さも同時に味わえる。 Photo: JICA
  • シーバクソンのジュースを瓶詰めにしている。 Photo: JICA
キルギスの羊毛フェルトを使った人形。 Photo: JICA

地域資源を生かしながら特産品を育てて地域活性化を目指す、日本生まれの一村一品運動は海外へも広がりを見せている。独立行政法人国際協力機構(JICA)の中央アジア、キルギス共和国でのプロジェクトについて話を聞いた。

キルギス共和国は中央アジアの山岳地帯に位置する国で国土の90%以上が山間部であり、首都ビシュケクも標高が約800メートルに位置する。1991年に旧ソ連から独立した国だ。独立後、政府は民主化及び市場経済化を軸とした改革路線を進めたが、地方の貧困化が進み、経済はなかなか発展しなかった。そのような背景から、2007年からJICAの協力のもとで一村一品(OVOP=One Village One Product)プロジェクトという地域経済活性化を目指す日本の国際協力事業が始まった。その事業において、キルギスの特産となる商品作りのアイデア提供から販売に至るまで全般的にかかわったJICA専門家の原口明久(はらぐち あきひさ)さんに話を聞いた。

「OVOPプロジェクトの実施はキルギス北東部のイシククリ湖周辺の地から始まりました。この辺りは質の高い羊毛や野生の果実、蜂蜜など特産品になり得る一次産品が多い地方でしたが、もともと、そういったものを製品化して市場で売るためのノウハウやシステムが圧倒的に不足しており、更にソ連崩壊後は輸出マーケットが失われた状態となっていました。プロジェクトでは、現地の生産者へ、付加価値の高い商品を作るための市場調査や加工技術、流通網の確保などを支援する活動をコツコツと行っていきました。そうして、羊毛やハーブ、ベリー、蜂蜜などを主力とする商品開発が進み、今では632種類もの商品展開となりました。また、それらの商品を販売するアンテナショップは首都ビシュケクをはじめキルギス全土に広がっています」。

首都ビシュケクのアンテナショップでもあるOVOPセンター。買い物客の6割は地元の人。質の高い商品を求めてやってくる。 Photo: JICA

商品の生産や加工は現地の女性たちによる作業が主だが、その技術指導も原口さん自らが担ってきた。日本のブランドである無印良品*との連携のもと開発されたキルギスの羊毛フェルト製品は、世界各地の無印良品の店頭で販売されている。ユーモラスで可愛らしい羊やロバなどのフェルト製の人形は人気商品だ。「最初は私も一緒に、針をチクチク刺して、羊毛フェルトの人形の製品見本を作ったものです」。

自然な羊毛の色を生かした羊の人形 Photo: JICA
羊毛を刈っている様子 Photo: JICA

羊毛フェルト製品以外にも、原口さんが手がけた人気商品に「白い蜂蜜」がある。「もともと蜂蜜は毎年7,000tもの生産量のあるキルギスの特産品です。その中でエスパルセットという植物に蜜源を限定することで真っ白の蜂蜜の生産が可能になりました。色の特長だけでなく、そのおいしさからレストランのシェフたちからの高い評価も得ています」。この「白い蜂蜜」は遠く離れた日本でも高級食材店などで販売されている。

エスパルセットという標高の高い地域で育つ植物を蜜源とした白い蜂蜜。 透き通るような白さを持ち、癖がない濃密な甘さも同時に味わえる。 Photo: JICA

また、シーバクソン**というキルギスに自生している果実を使った製品も人気がある。健康に良いとされる成分が多く含まれ、食品から、ボディケア製品まで実を余すところなく使う。いずれも高品質で、健康や美容への意識の高い欧米市場でも高く評価されている商品だ。「生産者は主に地方の女性たちで、質の高いものを作れば自分たちへいずれ還元されることがわかり、女性たちのエンパワーメント***も進みました。キルギス国内での成功を踏まえて、今後は周辺国にもOVOPプロジェクトを展開していく予定です」。キルギスのO V O Pの取組はますます広がっていくだろう。

シーバクソンのジュースを瓶詰めにしている。 Photo: JICA
シーバクソンの実。トゲがあるため手作業で実を摘む。 Photo: JICA

* 株式会社良品計画(りょうひんけいかく)が手がける、1980年にできた衣服、生活雑貨、家具、食品など幅広い品揃えからなるブランド。包装、デザインをシンプルにし、低価格の商品展開が特徴。世界32か国に店舗を展開している。
** グミ科の落葉低木。実に多くの栄養素が含まれ、健康食品として活用されている。シーベリー、サジーなどとも呼ばれる。
*** 力を与えること。社会福祉の分野では社会的弱者が自らの力でその状況を変えることを援助することとされている。