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January 2024

世界の人々を魅了する足立美術館の日本庭園の雪景色

  • 雪化粧の「枯山水庭(かれさんすいてい)」
    Photo: 足立美術館
  • 遠方の山々を借景とし、広々と見える枯山水庭
    Photo: 足立美術館
  • 雪化粧した静寂に包まれる庭園で、鯉だけが泳ぐ池
    Photo: 足立美術館
雪化粧の「枯山水庭(かれさんすいてい)」 Photo: 足立美術館

美しい日本庭園を有する足立(あだち)美術館。米国の日本庭園専門誌で日本国内約1,000か所の庭園から21年連続日本一に選ばれるなど、その庭は世界の人々を魅了している。庭園は四季折々にさまざまな表情を持つが、なかでも雪景色の庭の魅力を、足立美術館の広報・菅野綾夏(かんの あやか)さんに教えていただいた。

日本の本州西部で日本海側、山陰地方の島根県安来(やすぎ)市にある足立美術館は、同市出身の実業家、足立全康(ぜんこう)が長年にわたって収集した美術品をもとに1970年11月に開館した。中でも日本画の大家、横山大観(よこやま たいかん)の作品は初期から晩年に至るまで120点余りを所蔵し、館を代表するコレクションになっている。その他、陶芸や、木彫、漆芸、現代日本画など、所蔵総数は2,000点に及ぶ。そして、特筆すべきは、美術館の庭園の素晴らしさだ。

「当館の日本庭園は、館の建物を囲むように約5万坪(約16万5千㎡)に及ぶ広さがあります。館内の歩みを進めるごとに、苔が一面に生えた苔庭(こけにわ)、枯山水庭*、池庭、白砂青松(はくしゃせいしょう)庭**など、趣の異なる多様な庭園を、眺める場所や角度によって楽しんでいただけるのが特徴です。この日本庭園をいつでも最善の状態でご覧いただけるよう維持するため、当館には、全国の美術館でも珍しい庭園部の専属庭師らが365日毎日欠かすことなく手入れを行っています。また庭師だけでなく、開館前には毎朝、美術館の職員も総出で庭掃除を行っています。こうした徹底した維持管理も含めて、世界的な評価***を受けています」

遠方の山々を借景とし、広々と見える枯山水庭 Photo: 足立美術館

四季の移ろいとともに、見どころも変化するのが日本庭園の大きな魅力だ。

「主庭の枯山水庭は、遠くに見える自然の山々を借景とし、庭園の一部として取り込むことによって、実際以上に広く雄大な印象を持ってご覧いただけるかと思います。また横山大観「白沙青松」をモチーフに作庭された白砂青松庭や、同じく横山大観「那智乃瀧」(共に足立美術館所蔵)をイメージして作られた「亀鶴の滝」など、大観作品を庭園で表現するという発想は、まさに当館ならではと言えます。足立全康は「庭園もまた一幅の絵画である」という言葉を遺しています。その言葉のとおり、館内の窓をそのまま額縁に見立てた「生の額絵」や、床の間の壁の一部をくり抜き、窓越しに見える庭園をあたかも一幅の山水画****のようにご覧になれる「生の掛軸*****」などの粋な工夫が館内に施されています」

館内の窓を額縁に見立てた「生の額絵」 Photo: 足立美術館

特にこの庭園の雪景色は格別だ。

「シーズンに何度か、雪化粧をした庭園をご覧いただくことができます。山陰の湿潤な気候のもと、うっすらと降雪した雪化粧の日本庭園は、まるで水墨画******を観ているようです。雪が降った日は、静寂のなか穏やかな時間が流れ、普段とは異なる風情で目を楽しませてくれます。あえて雪化粧した冬の足立美術館を訪れていただければ、記憶に残る景色をご堪能いただけると思います」

雪化粧した静寂に包まれる庭園で、鯉だけが泳ぐ池 Photo: 足立美術館

* 日本式庭園の様式の一つで、水を用いないで、石や白砂などで山水を表現する様式。
** 白い砂浜に青々とした松のある日本の海岸風景を「白砂青松」と呼ぶ。足立美術館では、横山大観の傑作「白沙青松」の世界観を再現し庭園としている。
*** 米国の日本庭園専門誌『数寄屋リビングマガジン/ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング』が主催するランキングにおいて「庭園日本一」と評価されている。
**** 東洋画の画題の一つ。広義には風景画のこと。山岳や河水などの、自然の景観を描いた絵画。
***** 書画を布や紙で表装して竹木などの軸をつけ,床の間などに掛けるように仕立てたもの。大きさは縦長で、最も一般的なタイプ(尺五幅)が、幅(横)が54.5cm、縦が190cm。
****** 東洋画の様式の一つ。彩色を施さないで、もっぱら黒一色を用い、その色の濃淡と潤いの調子によって描く。