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January 2024

東山魁夷が描いた日本の雪景色

『年暮る』(1968)紙本・着色 100.0×73.0cm/山種美術館所蔵 Photo: 山種美術館
  • 『春雪』(1973)紙・着彩 168.0×
    215.0cm/千葉県立美術館所蔵
    Photo: 千葉県立美術館
  • 『冬の旅』(1989)紙・着彩 110.0×
    162.0cm/長野県立美術館・東山魁夷館所蔵
    Photo: 長野県立美術館
『年暮る』(1968)紙本・着色 100.0×73.0cm/山種美術館所蔵 Photo: 山種美術館

東山魁夷(ひがしやま かいい)の雪景色を描いた日本画*の魅力について、作品を所蔵している三つの美術館の方に話を聞いた。

20世紀を代表する日本画家の東山魁夷(1908-1999)は、ドイツへの留学体験もあり、日本絵画の伝統に西洋絵画の写実表現を一部取り入れ、写実的でありながら幻想的な雰囲気を持つ作風で知られる。日本の雪景色を描いた作品も数多く手掛けており、日本各地の美術館に所蔵されている。たとえば、近現代の日本画を中心としたコレクションで有名な山種美術館(東京都渋谷区)所蔵の『年暮る(としくる)』は、ノーベル文学賞を受賞した小説家・川端康成(1899~1972)との交流から生まれた連作中の一点だ。

「『京都は今描いといていただかないとなくなります、京都のあるうちに描いておいてください』という川端康成からの言葉をきっかけに、魁夷は京都の四季折々の姿を捉えた作品に取り組み、昭和43年に開かれた個展「京洛四季」で18点の連作を発表しています。『年暮る』は、その展覧会に出品されたうちの1点で、魁夷の定宿であった京都ホテル(現・ホテルオークラ京都)から、大みそかの雪降る京の町並みを描いたものです」という館長の山崎妙子さん。

「この作品について魁夷は、『京都で年の暮れを過ごして、除夜の鐘**を聞きました。まだ瓦(かわら)屋根が多く、そして四角いビルが少なかった時代で、この『年暮る』という作品は、京都への郷愁と愛惜の心から生まれたものです』と述べています。この言葉通り、大みそかの京都が詩情豊かに表現されています」

『春雪』(1973)紙・着彩 168.0×215.0cm/千葉県立美術館所蔵 Photo: 千葉県立美術館

また、千葉県立美術館(千葉市)に所蔵されている「春雪(しゅんせつ)」は、洛北とも呼ばれる京都市北部の山の急斜面に立ち並ぶ雪化粧した杉木立ちを描いている作品だ。

「かねてより水墨画***への憧れを持ち、色彩を多用するよりも深い精神性が表現できると語っていた東山は、1973年、65歳の時にこの作品を描き、日展(にってん****)に出品しました。色彩を抑えた青と白の二色のモノトーンの世界が広がっており、水墨画の深い精神性へと向かう序章とも感じられる作品です」と学芸員の相川順子(あいかわじゅんこ)さんは説明する。

『冬の旅』(1989)紙・着彩 110.0×162.0cm/長野県立美術館・東山魁夷館所蔵 Photo: 長野県立美術館

970点余りの作品が所蔵されている長野県立美術館・東山魁夷館(長野市)には、東山が80歳で描いた作品『冬の旅』が所蔵されている。秋田県鹿角(かづの)市の雪深い山を、見上げるように眺めた構図で描いた傑作だ。

「自分の人生を四季になぞらえた東山は、老境を冬の雪景色にたとえたのだと思います。人生の終盤を迎えつつある中で、旅を繰り返した自らの生涯を象徴するかのように描いた作品なのではないでしょうか」と学芸員の松浦千栄子(まつうらちえこさん)は説明する。

旅を続けながら晩年まで精力的に活動を続け、1999年、90歳で逝去した東山魁夷。機会があれば、彼のまなざしがとらえた日本の雪景色の美を表現した日本画を、直接鑑賞していただきたい。

* 現代では、一般に日本の伝統的な画材を使用して和紙や絹に描く絵画作品を日本画と言う。伝統的な日本画の画材は、墨、岩絵具などの天然の資源や、時には金箔などの金属素材が使用される。それらは接着力が無いため、膠(にかわ)により定着させる。 
** 毎年12月31日の大みそかの夜半から元旦にかけて、各地のお寺などで突く鐘の音のこと。
*** 東洋絵画の一形式。主に墨の濃淡を利用して描く絵画。
**** 1907年から続く日本最大級の公募展(日本画、洋画、彫刻、工芸美術、書)。毎年秋に国立新美術館にて無鑑査作品と入選作品を展示。