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January 2024

世界を魅了した冬の只見線を撮った傑作写真

「International Photography Awards」で大賞を受賞した「冬の只見(ただみ)線」 Photo: 亀山岳史
  • 亀山岳史さん近影
「International Photography Awards」で大賞を受賞した「冬の只見(ただみ)線」 Photo: 亀山岳史

冬の雪景色を捉えた写真が、世界的に高い評価を得ている写真家の亀山岳史(かめやま たけし)さん。厳しくも美しい日本の雪景色の魅力を聞いた。

亀山岳史(かめやま たけし)さんは、東京から新幹線で北へ2時間ほどの新潟市を拠点に活動するアマチュア写真家だ。2022年、亀山さんの撮影した「冬の只見(ただみ)線*」と題する福島県の雪景色が、世界最大級の国際写真コンテスト「International Photography Awards」で、日本人初となる Nature Photographer of the Year(自然部門最優秀賞)を受賞。国際舞台で一躍、注目を浴びた。

亀山岳史さん近影

亀山さんは語る。「雪の多い新潟で生まれ育ったので、子供のころから雪が降ることが当たり前でした。ところが近年、雪が積もらない年も増えこの素晴らしい景色が見られなくなるかもしれないと考えるようになりました。記録として写真を残すこと。またそれだけでなく、写真を見てくれた人が「この景色を守りたい」と共感し、環境保護への意識や行動のきっかけへとつながっていってほしい。このような思いから雪景色を撮影しています」

茅葺屋根の民家が街道沿いに建ち並ぶ福島県・大内宿(おおうちじゅく**)の幻想的な雪景色 Photo: 亀山岳史

このような思いから、地元・新潟県や福島県の中でも特に魅力的な雪景色をとらえる写真を撮影し続けているという。

「満足できる写真が撮れるまで、同じ場所に何度も足を運びます。理想は、一つ目は雪が積もり真っ白になっていること。二つ目は日が差していること。三つ目は少し雪が降っていること。そして四つ目として風が無く水鏡になっていること。しかし、これらのすべての条件が揃うことは年に数回あるかないかです。そこで、対象を福島県の只見線の電車が走る雪景色に定めた際は、午前2時に起きて、3時間かけて雪道を運転し、真っ暗闇の登山路を登り氷点下の中で列車が来るまで小一時間待つ。そんなことを繰り返しました」こうして撮影された「冬の只見線」が国際的な写真コンテストで、言わば世界一に輝くに至った。

「私は只見線沿線の景色が好きで以前より何度も通っていました。しかし、美しさと同時に自然の厳しさ、過酷さがあることも知りました。冬は雪深く除雪に追われ、列車が遅延したり運休したりすることもあります。2011年には豪雨により橋梁(きょうりょう)が流されるといった大きな被害を受け、11年間も通行できない区間がありました。利用する乗客数も減少し廃線も検討される中、地元の方々の尽力により2023年に全線で運転が再開されたのです。自然に寄り添い、たくましく暮らす人々に胸を打たれ、只見線沿線の「自然と人との共生」を写真で表現したくて、只見線を被写体に選びました」

「冬の只見線」によって国際舞台で認められた亀山さんは、世界的に有名な写真界のアカデミー賞と呼ばれる「ルーシー賞」のファイナリストにも選ばれた。2023年も、パリの国際写真コンクールで受賞されるなど、今、世界的にも活躍しつつある。

厳寒のなかで30kgを超える重量の機材をかつぎ移動し、決定的瞬間をひたすら待つという、雪景色の撮影は危険で過酷なものだ。しかし、日本の雪景色にはそれを上回る魅力がある。亀山さんが最も美しいと感じる雪景色は地元新潟、そして東北地方の福島、山形の三県をまたがる飯豊連峰(いいでれんぽう***)だ。

世界でも有数の豪雪地帯とされる飯豊連峰(写真は朳差岳・えぶりさしだけ)
Photo: 亀山岳史

「父が山小屋の管理や保全活動を行っていたこともあり、子供のころから何度も登りました。冬になると雪深く人を寄せ付けない場所となりますが、真っ白に輝くその雄大な姿は、憧れや懐かしさもあり私にとっては一番の雪景色です」

今後も、まだあまり一般には知られていないが魅力的な場所を撮影していきたいという亀山さん。彼の眼差しを通した作品が、日本に住んでいても気づかない雪景色の素晴らしさを再発見させてくれるに違いない。

* 福島県南会津に位置し、江戸時代に宿場町として栄えた地区の名称。現在は当時の面影をそのままに茅葺(かやぶ)き屋根の民家が立ち並ぶ観光地となっており、1981年に国選定重要伝統的建造物郡保存地区に認定された。
** 福島県会津若松市の会津若松駅から新潟県魚沼市の小出駅までを結ぶ東日本旅客鉄道(JR東日本)の鉄道路線(地方交通線)。
*** 飯豊連峰は磐梯朝日国立公園に属し、新潟県・福島県・山形県の県境に位置し、北から南まで、直線距離で約20kmに及ぶ。連峰中核の飯豊山(いいでさん、2105m)、朳差岳(えぶりさしだけ、1636m)などが連なる。