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January 2024

世界自然遺産「知床」の流氷を臨む雪景色

  • 2月に知床沖に現れる流氷
    Photo: 知床斜里町観光協会
  • 観光客に人気の流氷ウォーキング
    Photo: SHINRA/知床自然ガイドツアー(株)
  • 年々、接岸の期間が短縮している流氷 Photo: 環境省
  • 青く瀑氷するフレペの滝
    Photo: 環境省
  • 散策中に野生動物にひょっこり出会えるかもしれない。写真はエゾシカ。 Photo: 環境省
  • 厳冬期の知床五湖エコツアー Photo: 知床オプシャルツアーズSOT!
  • 冬季だけ主に流氷に飛来し、越冬するオオワシ Photo: 環境省
2月に知床沖に現れる流氷 Photo: 知床斜里町観光協会

日本の最北部・北海道の北東部に位置する知床(しれとこ)半島。その海岸域には、冬になると流氷が接岸する。ダイナミックな流氷を臨む知床半島の雪景色について、環境省ウトロ自然保護官事務所の井村大輔(いむら だいすけ)さんに聴いた。

知床半島は、長さが約70km、幅が基部で約25kmと細長い半島だ。西側がオホーツク海、東側が根室海峡に面している。その海岸域は北半球において流氷が接岸する南限地であり、流氷の影響を受けた海から陸につながる豊かな生態系を持っていることが高く評価され、2005年に「知床」として半島の大部分と周辺海域の71,000 ha(陸域48,700 ha、海域22,300 ha)がユネスコの世界自然遺産に登録された。

半島西側(ほぼ斜里町)の海岸線は高さ100mを超える断崖が続いているが、これは、半島でかつて活動した火山から流出した溶岩が、流氷に激しく浸食されて形成された。また、フレペの滝のように、溶岩の間に地下水が流れ、断崖から滝となってオホーツク海に流れ落ちている光景も多く見られる。一方、流氷が強い勢いで接岸しない半島東側(ほぼ羅臼町)は、比較的なだらかな海岸線が続いている。

知床半島の冬は一面雪に覆われ、海は2月を中心に流氷が到来し、独特の雪景色が展開し、海面に浮かぶ流氷上を歩行するツアーが実施される。また、厳寒の地から到来してくるオオワシなど越冬動物が白銀の景色の中に姿を見せる。そして、氷雪の凍結によって、ほかの季節には見ることができない知床五湖の湖上からの雪景色を味わうことができるという。

環境省ウトロ自然保護官事務所の井村大輔(いむら だいすけ)さんによると、ダイナミックな流氷のある雪景色が楽しめるのは冬の中でも短かい期間だという。

「知床半島の東西を結ぶ知床横断道路(国道334号線)が峠の凍結を理由に11月8日に閉鎖し往来が不可能になります。知床の冬の始まりです。12月から3月にかけて降雪しますが、流氷は1月後半だと到来していないことが多く、確実に見られるのは2月です。3月中旬には風に押されて沖のほうへ戻り、見えなくなります」

年々、接岸の期間が短縮している流氷 Photo: 環境省

冬期は公共交通機関でアクセスできるのは、西側(通称「ウトロ側」)の海外線の真ん中くらいにある知床自然センターまで。流氷を臨む雪景色を楽しみたい場合は、自然センターの裏手にある散策コースを歩くのがおすすめだという。

「知床を代表するフレペの滝や湯の華の滝(通称「男の涙」)、まるで氷の芸術のようなこの二つの滝を巡り、原生林を歩くコースがおすすめです。特に終点の崖沿いの「瀑氷(ばくひょう)」*と呼ばれる、凍りついたフレペの滝は圧巻です。また、半島の反対側、東側の羅臼(らうす)国後(くなしり)展望塔から流氷が到来している羅臼町の沿岸の様子を見るのも格別です」

森や町は雪で覆われ、海を臨めば一面が流氷。雄大な白一面の雪景色は冬のごくわずかな期間の知床半島でしか味わうことのできない絶景だ。

青く瀑氷するフレペの滝 Photo: 環境省
散策中に野生動物にひょっこり出会えるかもしれない。写真はエゾシカ。 Photo: 環境省

最近は、流氷を臨む荘厳な雪景色を楽しむために海外から訪れる観光客も多いという。

「雪に慣れている国や地域からの来訪者には冬の知床五湖周辺で行うエコツアーをお勧めします。スノーシュー**を履いて凍りついた湖面の上を散策できるので、普段の知床とはまた違う雪景色を堪能できるでしょう」

また、ウトロ沖で実施される流氷ウォーキングを楽しむツアーは、雪に慣れていない東南アジア、中国等からの観光客にも人気だ。

厳冬期の知床五湖エコツアー Photo: 知床オプシャルツアーズSOT!
観光客に人気の流氷ウォーキング Photo: SHINRA/知床自然ガイドツアー(株)

「ツアー参加者はドライスーツを着て氷の上を歩いたり、氷を踏み抜いて腰まで海に浸かり、写真を撮りあって楽しんでいます。」

冬季だけ主に流氷に飛来し、越冬するオオワシ Photo: 環境省

井村さんによると「流氷が来ると海面の波がなくなるので、知床は一面静寂に包まれます。流氷の上に静かに雪が積もっていく様子は筆舌に尽くしがたい風景です」とのこと。温暖化の影響で年々流氷が薄くなり楽しめる期間も短くなっているという。ぜひ一度その目で勇壮な景色を堪能してほしい。

知床半島

* 凍りついた滝のことを指し、滝から流れる水が外気に触れることで凍っていく現象
** 雪の上を楽に歩くための雪上歩行具のひとつ。西洋「かんじき」。