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December 2023

落語を世界に広める、スウェーデン出身落語家

  • 観客を前に落語を披露する様子
  • スウェーデン公演の様子
  • 三遊亭好青年さん
    Photo: 中村恭平
  • 伝統的な古典落語のほか、自身の創作落語にも挑戦
観客を前に落語を披露する様子

約400年の歴史があり、一人で複数のキャラクターを演じる伝統的な話芸である落語。その厳しい世界に飛び込んだのが、スウェーデン出身の落語家・三遊亭好青年(さんゆうてい・こうせいねん)さんだ。落語には昔から語り継がれてきた古典落語や、現代の落語家による創作落語など、たくさんの演目があるが、いずれの噺(はなし)も庶民の滑稽噺(こっけいばなし)や人情噺が展開する。好青年さんは、日本語のほか、英語、スウェーデン語でも落語を披露し、世界に落語の魅力を伝えている。

交換留学で来日した三遊亭好青年さん。大学でたまたま落語サークルに勧誘されたことが、落語との最初の出会いだった。落語の特徴は、座布団の上で正座をしたままの着物姿の話者が、衣装や舞台演出に頼ることなく、一人で何人もの役柄を声色や身振りだけで登場人物の違いをつけながら演じるところにある。好青年さんは、そのような落語に魅せられていった。出身地であるスウェーデンの大学を卒業後、「会社勤めは自分には向かない」と思った好青年さんは、「落語に出会ったのも何かのご縁」と考え、本格的に落語の道を志すために再来日した。演劇学校で学びながら、寄席(よせ)(落語を公演する場所)に通い続けた。

プロの落語家になるためには、師匠を見つけて弟子入りしなければならない。好青年さんが数々の落語家の中から「この人に学びたい」と強く惹(ひ)かれたのが、三遊亭好楽(さんゆうてい・こうらく)師匠だった。熱意を伝えるために、好青年さんは日本語で書いた長文の手紙を持って楽屋を訪問。

「師匠の落語には温かみがあり、人間としてとても尊敬できる方。『外国人ではありますが、好楽師匠から落語を学びたい』という気持ちを手紙に書きました」

本気の思いが伝わり、入門を許可された好青年さん。厳しい修業が必要なことを承知のうえで落語界に飛び込んだが、最初は独特のしきたりや、スウェーデンとの文化の違いに戸惑ったこともあったという。

三遊亭好青年さん Photo: 中村恭平

「着物のたたみ方や作法、お茶の出し方も一から学びました。特に慣れるまで大変だったのが謝(あやま)り方。スウェーデンではトラブルが起きた理由を説明しますが、日本で同じことをすると言い訳のように受け取られてしまいます。同僚が失敗したときには連帯責任として一緒に謝らなければならないなど、伝統芸能の世界ならではのルールも多く、受け入れるまでには少し時間がかかりました」

入門から4年後の2020年8月、プロの落語家として落語を披露できる二ツ目に昇進。三遊亭好青年という名前を師匠から授かった。得意な演目は「強情灸(ごうじょうきゅう)」で、とても熱いが身体に良いと評判の灸(きゅう)*の店に行って、大変な熱さに耐えてきたと友人に自慢された主人公の男が、自分も負けまいと腕に大量の灸をすえて、熱さを我慢するというストーリーだ。現在は日本語で落語を披露するだけでなく、英語やスウェーデン語に翻訳して、母国をはじめとしたヨーロッパの国々でも落語会**を開催している。

「翻訳するときは、落語ならではの人情味やオチ***を残しながら、日本の歴史を知らないと意味がわからない表現は、現地の文化になぞらえて似た意味の表現に置き換えています」

最近ではクリスマスや夏至祭といったスウェーデンの文化をテーマにした落語などの創作にも挑戦。今後は落語家としてさらに修業を重ね、弟子を取れる立場である真打ちを目指していく。

伝統的な古典落語のほか、自身の創作落語にも挑戦

「まずは伝統を大切にしながら、一人の落語家として認められるようにもっと落語がうまくなりたい。その上で自分の個性を活かした落語を追求し、世界に落語を広めていきたいです。だいぶ先になりますが、もし海外出身で落語家になりたい人や英語落語に興味がある人がいたら、いつか弟子を取ってみるのもおもしろそうですね」

スウェーデン公演の様子

* 東洋医学における治療法の一つ。3~5mmほどのもぐさ(ヨモギの葉の裏面に生えている毛を乾燥させて集め、綿状のかたまりにしたもの)に火をつけて皮膚の特定の位置に据え、身体に温熱刺激を与えることで、さまざまな疾患の治癒を促すとされる。
** 普段は落語を上演しないホールや劇場などに、落語家が出向いて演目を披露する会。
*** 一般には、話の効果的な結末を指す。 落語では、しゃれや語呂合わせなどで話の終わりを締めくくること、あるいはその部分。