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December 2023

ツルを描いた名画

《鶴下絵三十六歌仙和歌巻(つるしたえさんじゅうろっかせんわかかん)」》(部分)重要文化財 俵屋宗達画・本阿弥光悦書 紙本金銀泥 縦34.1㎝×長さ1356㎝ 所蔵:京都国立博物館
  • 《四季花鳥図屏風(しきかちょうずびょうぶ)》(右雙)重要文化財 雪舟筆 紙本著色 六曲一双 縦151.0㎝×横351.8cm 所蔵:京都国立博物館

古来、縁起が良いとされてきたツルは、その美しい姿と相まって、日本では絵画のモチーフとしてよく描かれてきた。その中から、二つの代表的な名品を取り上げ、その魅力を紹介する。どちらも京都国立博物館が所蔵している作品だ。

日本の近世を代表する二人のアーティスト、本阿弥光悦(ほんあみ こうえつ*)と俵屋宗達(たわらや そうたつ**)の共作による「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」は、縦が約34cm、 全長が約13.6メートルの絵巻物状の作品だ。宗達が絵を描き、光悦がその上から和歌を墨書した、コラボレーション作品だ。「描かれているモチーフはツルのみに限られています。長大な巻物の冒頭から繰り広げられる100羽を超えるツルの群れが一様に金と銀の泥(でい***)で華やかに表現されています。飛翔する姿、あるいは羽を休めるツルの姿態は、単純そのものの筆づかいで捉えられていながら、シルエットの美しさは比類ないものです」と京都国立博物館主任研究員の福士雄也(ふくし ゆうや)さんは、作品の魅力を解説する。優雅に生き生きと描かれたツルの群れは、鹿児島県出水(いずみ)(「日本にいるツルの種類と特徴及び日本人とツルとの関わりについて」参照)の光景を思わせる。ここは、毎年約一万羽のツルが飛来し、越冬する場所だ。そして、絵の上に書かれた光悦の書は、日本の伝統的定型詩である和歌を詠む古代から10世紀頃までの名高い歌人36人の和歌であり****、華麗で装飾性あふれるダイナミックな筆致が見てとれる。絵と書が相まって、鑑賞する者をツルたちが奥深い和歌の世界へ誘(いざな)ってくれるかのような、味わい深い作品だ。

《四季花鳥図屏風(しきかちょうずびょうぶ)》(右雙)雪舟筆 紙本著色 六曲一双 縦151.0㎝×横351.8cm 所蔵:京都国立博物館

もう一点のツルが描かれた作品は、15世紀に描かれた雪舟(せっしゅう*****)の「四季花鳥図屏風(しきかちょうずびょうぶ)」だ。左右一対の屏風のうち、ツルが描かれているのは右隻で、季節は冬春から夏。右側の曲がりくねった松の木の幹と根、左側の松の枝の下にいる端正な佇(たたず)まいの一羽が印象的だ。ほぼ、実物に近い大きさで描かれていて、間近に見るとかなり迫力がある。雪舟(1420~1506年頃)は、後世の画家たちへも多大な影響を与えた日本美術史上の偉大な画家である。同博物館研究員の森道彦(もり みちひこ)さんは、「雪舟筆と伝わる花鳥画はいくつかありますが、ほとんどが弟子かそれ以降のもの。その中で唯一、雪舟自筆の可能性が高いのがこの屏風です。龍のように雄々しく複雑な形の巨木が画面をフレーミングしていて、こういう樹木や岩の一種奇怪ともいえるダイナミズムや立体的な配置の妙は、中国に渡ったことのある雪舟ならではのものです。またそういう動きや勢いある表現と対照的に、派手な異国の鳥ではなく、清楚な野山の鳥をひっそりと遊ばせるのは、彼が僧侶画家であることによるのでしょう」と語る。

これら二作品を所蔵する京都国立博物館は、海外からの観光客が多く、展示作品の解説の一部、パンフレット類は英語・中国語・韓国語版が設置されている。古都・京都を訪れた際は、ツルを描いた作品はもとより、さまざまな日本の絵画との出合いを求めて、足を運んでみてはいかがだろうか。

* 1558年京都生まれ。1637年没。近世初頭の美術工芸界の指導者として活躍した。また、当時を代表する能書家として知られた。書だけでなく、陶芸、漆芸など様々な分野をまたぎ、多くの作品を残している。
** 生没年不詳。17世紀前半に京都で活躍していたとされる画家。代表作の国宝「風神雷神図屏風」で有名。
*** 金属を細かくし、顔料のように粉状にし、動物性コラーゲンを接着料として練って泥状態にした画材。
**** 10世紀後半から11世紀にかけて活躍した歌人・藤原公任(ふじわらの きんとう。966~1041)が選んだ7世紀から10世紀頃までを代表する歌人三十六人の和歌を掲載した「三十六人撰(さんじゅうろくにんせん)」に掲載されている和歌。
*****1420年生。1506年頃没。15世紀に活躍した日本における水墨画の大成者。当時の明へ2年間留学して中国の水墨画の技法を自己のものとした。