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December 2023

ツルにまつわる民話が伝わる里

  • 「鶴の恩返し」の物語が伝わる鶴布山珍蔵寺(かくふざんちんぞうじ)。 Photo: 南陽市
  • 金蔵の家で女性の姿となって機織りするツルの様子を説明する展示 Photo: 夕鶴の里資料館
  • 夕鶴の里資料館。珍蔵寺から徒歩10分ほどの距離。
    Photo: 夕鶴の里資料館
  • 資料館内の機織り機(機織り体験も可能) Photo: 南陽市
  • 民話が好きな地元の方々が中心となり、語り部の活動をしている様子。 Photo: 夕鶴の里資料館
「鶴の恩返し」の物語が伝わる鶴布山珍蔵寺(かくふざんちんぞうじ)。Photo: 南陽市

日本の東北地方に位置する山形県の南陽市(なんようし)は、民話「鶴の恩返し」が伝わる里として知られている。物語を伝承するために設立された資料館「夕鶴の里」の館長に話を聞いた。

夕鶴の里資料館。珍蔵寺から徒歩10分ほどの距離。 Photo: 夕鶴の里資料館

山形県南陽市の西部、漆山(うるしやま)地区を流れる織機(おりはた)川のそばに、日本人に広く知られている民話「鶴の恩返し」*が伝わる鶴布山珍蔵寺(かくふざんちんぞうじ)という寺がある。この地区には鶴巻田(つるまきだ)や羽付(はねつき)など、「鶴の恩返し」を連想させる地名も数多く残り、明治時代には製糸業の町として栄えた。現在では「夕鶴の里(ゆうづるのさと)」という資料館が作られ、製糸に関する展示や、民話の口演や機織り体験などが楽しめる。夕鶴の里資料館館長の山田和男(やまだ かずお)さんに話を聞いた。

「この辺りに伝わる民話の鶴の恩返しでは、子どもたちにいじめられていたツルを金蔵という男が助け、そのツルが人間の女性に姿を変えて男のために自分の羽毛を使って機を織り、恩返しをするという話です」と山田さん。

文献や伝承によって物語の細部に差異があるものの、教訓を学べる民話として、絵本や口承によって、日本全国の子どもたちに今でも広く知られている。その理由について山田さんはこう説明する。

「約束を守る、困っている人を助けるという教訓を語り継ぐ役目があったこと、19世紀終わりから20世紀始め頃に乱獲により激減する以前は、ツルは身近な鳥だったことからこの民話が広まったと考えられています」。

夕鶴の里には、資料館と語り部の館の2つの建物がある。「1873年に機械製糸工場が設立されて以来、地場産業として製糸業が栄えました。その歴史を踏まえ、資料館は大正時代に建てられた白壁のまゆ蔵(繭を貯蔵するための蔵)を利用しています。語り部の館では、地域で伝承される民話や神話を語り継ぐ『語り部(かたりべ)』の方たちが、鶴の恩返しなど各地に伝わる民話を情感豊かに語ってくれます」。

金蔵の家で女性の姿となって機織りするツルの様子を説明する展示 Photo: 夕鶴の里資料館

夕鶴の里では、英語・韓国語・中国語(繁体字)の字幕付きで鶴の恩返しのストーリー映像を視聴できるほか、英語のパンフレットも置いてある。

資料館内の機織り機(機織り体験も可能) Photo: 南陽市

「海外からのお客さまもお越しになります。『恩を返すことは大切ですね』と内容をよく理解してくださった感想をいただいくことも。とても嬉しいです」。

ぜひ、ツルの伝説の伝わる地へ足を運び、日本の昔ばなしの世界を堪能してみていただきたい。

民話が好きな地元の方々が中心となり、語り部の活動をしている様子。 Photo: 夕鶴の里資料館

* 15世紀ごろから語り継がれてきた民話といわれており、作者は不明。日本各地で語り継がれているため、原作については諸説ある。劇作家の木下順二(1914~2006)が、この話をもとに戯曲「夕鶴」を1949年に発表した。のちに、1952年にオペラ化された。また、歌舞伎役者の五代目坂東玉三郎がつうの役を演じて話題となった。

【コラム】民話「鶴の恩返し」をもとに書かれた戯曲「夕鶴」(木下順二作)のあらすじ
雪深い村に住む純朴な青年与ひょうは、傷ついた一羽の鶴を助けた。恩返しに鶴は人間に姿を変えて妻・つうとして与ひょうの家に住み着き、自分の羽を織り込んだ布・千羽織を贈る。その織物を都で売れば大金が手に入る、とそそのかされた与ひょうは、つうにもっと織るよう強要する。つうは、お金にとりつかれた与ひょうに落胆するが、千羽織を得ることで与ひょうの心が戻ってくることを信じて、布を織る決心をする。与ひょうは、つうに布を織っているところを「決してのぞき見しないこと」と言われていたが鶴となって布を織っているつうの姿を見てしまう。翌日、すっかりやせ細ったつうは、千羽織を与ひょうに渡すと別れを告げ、空に飛び立っていく。
【新国立劇場の紹介を参照】

※山形県南陽市の漆山地区では、鶴の化身の女性が自分を助けた男に最後に渡した織物が、珍蔵寺に宝物として納められたと言われている。