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November 2023

インドネシア共和国における母子健康手帳を活用した保健医療に関する国際協力

  • 母子健康手帳を手に、家庭での様子をたずねる保健医療従事者 Photo: JICA Osaki Keiko
  • 州ごとに表紙に掲載する親子の写真を変えて地域のオーナーシップを高めたインドネシアの母子健康手帳の数々
    Photo: JICA Osaki Keiko
  • 母子健康手帳を活用した母親学級プログラム Photo: JICA
  • インドネシアの実情に合わせて、イラストを多用した母子健康手帳を広げるお母さん Photo: JICA
  • インドネシアで得られた知見を共有する国際研修
    Photo: JICA Osaki Keiko
母子健康手帳を手に、家庭での様子をたずねる保健医療従事者 Photo: JICA Osaki Keiko

妊娠中及び出産時の母子の状態、子どもの成⾧・健康状況を、継続的に記録するための冊子「母子健康手帳」(以下「母子手帳」)を、日本では母子保健のツールとして70年以上にわたって使用し、日本は今では母子の死亡が最も少ない国の一つになっている。この母子手帳を、独立行政法人国際協力機構(JICA)は、インドネシア共和国で導入することを支援し、長年にわたって同国に合う母子手帳の開発・試行・活用などについて技術協力を行ってきた。JICAの国際協力専門員・尾﨑敬子(おさきけいこ)さんに、その概要について話を伺った。

乳児死亡率、妊産婦死亡率が高かったインドネシア共和国(以下「インドネシア」)では、日本で長年活用されてきた母子手帳が導入された当時より、大きく状況が改善している。実は、インドネシア人医師がJICAの研修で日本を訪れた際、母子手帳の活用を知り「インドネシアにも導入したい」と要望したことが、導入の発端だ。そこで90年代からJICAの『家族計画/母子保健』プロジェクトから支援がスタート。企画・開発期間やトレーニング期間を経て、全国で母子手帳が配布・活用されるようになった。当時の様子を尾﨑さんはこう振り返る。

母子健康手帳を活用した母親学級プログラム Photo: JICA

「当時、インドネシアでは自宅で助産師さんがお産を介助することがまだ多かったし、医療が必要な際には、自分たちで病院に行く必要がありました。また、出産後にはポシアンドゥという地域での健診活動があるのですが、そこで必ず受けなくてはならない予防接種が終わると母親が通わなくなり、その後の乳幼児の成長をみていく機会がなかなかありませんでした。母子手帳の導入によって、妊娠中の経過や出産や育児の記録が残るようになり、母子の健康を日常的に把握できるようになった意味は大きかったのではないでしょうか」

インドネシアの実情に合わせて、イラストを多用した母子健康手帳を広げるお母さん Photo: JICA

母子手帳の導入に当たり、内容は日本のものそのまま翻訳することはせず、インドネシアの状況に合わせて作成している。文字だけでなく、イラストを多用して、保健情報を伝えるという妊産婦の健康や育児のための情報提供の機能も持たせるようにした。実際に母子手帳を活用した地域では妊娠、出産、出生後の期間を通じて継続してケアが受けられていたり、家庭でのケアに夫からの支援が増えたりなど、母子を取り巻く環境の改善が確認された。また、配布地域の母親が乳児を抱いている写真を表紙に掲載し、親しみやすいデザインにした。

州ごとに表紙に掲載する親子の写真を変えて地域のオーナーシップを高めたインドネシアの母子健康手帳の数々 Photo: JICA Osaki Keiko

「日本の母子手帳とは異なり、母子の写真の表紙にしたところ、新しく導入する地域からぜひ自分たちの地域の親子写真を表紙にしたい、と大きな反響がありました。地域のオーナーシップが高まる取組なのだと、気づかされました。今では標準版の母子手帳の表紙は一種類ですが、インドネシア国内33州、全て異なる親子の写真を表紙に取り入れた時期もあります」

2014年からは、インドネシアでは国民皆保険もスタートし、誰でも必要な医療が受診できる制度も整いつつある。お産を取り巻く状況はかなり改善されてきている。また、インドネシアのように母子手帳を取り入れたいと考えているアジアやアフリカの国へ、インドネシアの事業で得られた知見を共有する国際研修も始まり、JICAも継続して協力している。

尾﨑さんはこう語る。「90年代に始まったプロジェクトからいろいろな形で協力を継続してきたことは、日本にとっても国際協力展開の学びの場になってきました。実は、母子手帳の導入当時、インドネシア保健省には乳児死亡率を下げたいという強い思いがあり、様々な取り組みをしていました。取り組みを模索する中で、世界各国でも活用できる汎用的な日本の母子手帳の価値が見出された。日本にとっても世界に貢献できる貴重なツールを発見する機会をいただいたと思います」

インドネシアで得られた知見を共有する国際研修 Photo: JICA Osaki Keiko

〈参考〉インドネシアにおける母子健康手帳を活用したJICAの国際協力事業で主なプロジェクト

■「母子手帳による母子保健サービス向上プロジェクト」

  • 協力期間:2006年10月~2009年9月
  • 概要:乳児死亡率、妊産婦死亡率ともに改善が必要な状況にあったインドネシアにおいて、日本は、1994年に同国版母子手帳の中部ジャワ州での試験的な導入以来、開発・普及など、技術協力を支援してきた。この協力では、全国で、母子手帳が母子保健サービス統合の手段として機能し継続するためのシステムを確立するために、活用のモデルづくり、研修やモニタリングの充実、評価活動などを支援した。

■地方分権下における母子健康手帳を活用した母子保健プログラムの質の向上プロジェクト

  • 協力期間:2018年10月~2024年10月
  • 概要:インドネシアにおける母子手帳のサービス利用率は地域間格差が生じていた。SDGs達成に向けた母子継続ケア推進のために、この協力では、拠点州を中心に、母子手帳を活用した小児の定期健診モデルの試行、母子手帳と共に使用する早産児・低出生体重児のための冊子の開発、デジタル技術の活用の検討などを通じて、母子保健サービスの更なる向上を図っている。また、国際研修の実施を通じたアジア・アフリカの国々への知見の共有も支援している。

参考URL
https://www.jica.go.jp/oda/project/0600435/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/1600614/index.html