Skip to Content

November 2023

カンボジア王国における水道事業に関する国際協力

  • 日本の国際協力によって立派に再生したプノンペンの浄水場の一例 Photo: JICA
  • 処理前の水(左)と浄水後の水(右)。プノンペンでは24時間安全な水の給水が可能に Photo: JICA
  • 1993年ごろの写真。放置されていた浄水場のろ過池の様子 Photo: JICA
  • 24時間体制でシステムを監視するプンプレック浄水場のモニター室(プノンペン市) Photo: JICA
  • 水道が行き届いていない地方もまだ多いのが今後の課題だ
    Photo: JICA
日本の国際協力によって立派に再生したプノンペンの浄水場の一例 Photo: JICA

内戦によって極度に悪化していたカンボジア王国(以下「カンボジア」)の水道事業の再生に係る国際協力について、独立行政法人国際協力機構(JICA)の元国際協力専門員である山本敬子(やまもとけいこ)さんと、元JICA専門家の矢山将志(ややま まさし)さんに話を伺った。

カンボジアでは1990年代初頭まで続いた内戦により、上水道施設が破壊されたまま十分な維持管理が行われず、状況は極度に悪化していた。そのため人口の増加に給水量は追いつかず、未給水人口が増加しており、また、水道施設の老朽化により、水質も世界保健機関のガイドライン値を満たしていなかった。JICAは、1993年から首都・プノンペンの水道インフラを整備するマスタープランを作成する支援を行った。それを基に、引き続き1994年から2006年にかけてプノンペンの水道事業を担うプノンペン水道公社に対して、施設整備と人材育成に関する国際協力を行った。施設整備及び人材育成に携わった山本さんは、当時をこう振り返る。

1993年ごろの写真。放置されていた浄水場のろ過池の様子 Photo: JICA

「施設整備の一環として改修したプンプレック浄水場で生産された安全な水は、貧困地域を含めたプノンペン市内に給水され、給水状況の改善に寄与しました。10年という短期間でプノンペンの水道事業が劇的に改善された要因として、カンボジアの人材が非常に優秀だったこともありました。当時のプノンペン水道事業のトップであるエク・ソンチャン氏を筆頭に、内戦直後のプノンペンを発展させようという強い意志を持つ人たちが水道事業に集まったのは非常に幸運でした」

処理前の水(左)と浄水後の水(右)。プノンペンでは24時間安全な水の給水が可能に Photo: JICA

のちに「プノンペンの奇跡」とも称えられた水道事業の発展は、その後カンボジア全土に拡がり、継続的に支援が続けられている。日本からは、JICAとともに北九州市も継続して深く関わっているのが特徴的だ。元JICA専門家でもある北九州市上下水道局(当時)の矢山さんに、現在に至るカンボジアでの取組について伺った。

エク・ソンチャン工業手工芸省長官(当時)と水道行政管理能力向上プロジェクトメンバー(左から3番目が矢山氏、中央がエクソンチャン氏) Photo: JICA

「カンボジアの水道事業に北九州市が職員を派遣し始めたのは1999年。漏水防止技術、漏水を防ぐ大切さを伝えました。主に漏水によって料金を徴収できない割合を示す無収水率は、支援開始当初は72%の高さでしたが、2010年にはわずか6%にまで下がりました。その後も、JICAと北九州市は長期にわたる技術協力を通じて、カンボジアと信頼関係を構築し、日本からの多くの支援案件に関与しています。現在では取組は都市部から地方に広がり、更に、全国の水道事業体を中央政府が管理監督できる仕組みづくりを「水道管理」という観点から目指す、「水道行政管理能力向上プロジェクト」を2023年3月まで実施しました」

24時間体制でシステムを監視するプンプレック浄水場のモニター室(プノンペン市) Photo: JICA

全国的に水道を行政が管理する日本とは異なり、カンボジアの地方の水道は民営水道が多いことが特徴だ。前述の事業では、個々の民営水道を主管官庁が監督する仕組み作りを通して、水道網のネットワークを拡大していくことで、広くかつ安定的に安全な水を供給できるよう進めているという。

「カンボジアの水道事業の再生は国際連合の公式ウェブサイトにもSDGsの成功例として取り上げられています*。世界的な課題解決に日本が国際的に貢献できた意義はとても大きい。カンボジア水道事業に関する日本の国際協力の継続、発展は、今後の両国の友好の深化にも大いに貢献できるのではと期待しています」

水道が行き届いていない地方もまだ多いのが今後の課題だ Photo: JICA

* 持続可能な開発目標として国際連合が定めた17のゴールのひとつ
「目標6:すべての人々の水と衛生の利用可能性と接続可能な管理を確保する」の成功例として紹介されている。 https://sdgs.un.org/partnerships

〈参考〉カンボジアにおけるJICAによる安全な水に関する国際協力の例

■「プンプレック浄水場拡張計画」

  • 協力期間:2001年5月(交換公文署名)~2003年10月
  • 概要:内戦によって悪化した給水状況の改善を図るため、老朽化が著しかったプンプレック浄水場の改修と給水能力の拡張を支援した。人口の増加に対応した給水量の確保、世界保健機関のガイドライン値を満たす水質の改善などが行われた。この支援により、安全な水が貧困地域に優先的に給水され、貧困層の給水状況の改善に寄与した。

■「水道事業人材育成プロジェクト」フェーズ1

  • 協力期間:2003年10月~2006年10月
  • 概要:日本等がプノンペン水道公社(PPWSA)に対して行った施設の建設を中心とした支援により、給水能力の拡大が実現した。しかし、新たな施設の管理を効率的に行うための人材の育成が急務となっていたため、PPWSAの職員に対し、水道施設の運転及び維持管理能力向上のための技術移転を実施。これにより、都市部の安全な水へのアクセス拡大に寄与した。その後、本プロジェクトの成果を全国に展開するフェーズ2(2007~2012)、全国公営水道の経営改善を目的としたフェーズ3(2012~2018)が実施された。

■「水道行政管理能力向上プロジェクト」

  • 協力期間:2018年7月~2023年3月
  • 概要:都市部における給水状況は改善をとげたが、地方では急速な都市化に対して水供給体制が追い付いていなかった。この協力では、水道事業を所管する工業科学技術革新省水道総局に対し、幅広い業務を実施するための組織体制強化や、民営水道事業者の規制・監督の能力向上など、安全な給水を全国に拡大するための能力向上の支援を進めた。

参考URL
https://www.jica.go.jp/oda/project/0100500/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/0601334/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/1700174/index.html