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November 2023

JICAとメコン地域における連結性

プノンペンとタイ国境を結ぶ国道5号線。整備前(左)と整備後(右) Photo: ©Kingdom of Cambodia Ministry of Public Works and Transport
  • 南部経済回廊上のカンボジアのメコン川に架かる橋長640メートルのネアックルン橋(つばさ橋)
    Photo: JICA
  • タイとラオスを結ぶ東西経済回廊上に建設された第2メコン国際橋 Photo: JICA

メコン河*が流れるカンボジア王国、ラオス人民民主共和国、ミャンマー連邦共和国、タイ王国及びベトナム社会主義共和国をメコン地域諸国と呼ぶ(以下、各国名は略称表記とする)。そのメコン地域諸国(以下「メコン地域」)をつなぐ経済回廊**の開発・整備に対して、日本の独立行政法人国際協力機構(JICA)は国際協力事業を推進している。今年(2023年)10月、そのうちの一つ「南部経済回廊」の連結性の現状や課題などについて現地調査が行われた。その経緯や概要を紹介する。

メコン地域における経済回廊 提供: JICA

メコン地域には主な経済回廊として、「東西経済回廊」(インドシナ半島を東西に横断)、「南北経済回廊」(インドシナ半島を南北に縦断)及び「南部経済回廊」(ミャンマー、タイ、カンボジア、ベトナムを結ぶ)がある。1990年代初めまで続いた紛争によって寸断された道路インフラの復旧が急務だったこの地域において、国境を隔てた国が互いに協力すれば地域は安定するという考えのもと、経済開発プログラムの一環として、経済回廊は国際的な枠組みの協力の下で整備が進められてきた。

JICAは、インフラ整備や開発調査など、ハード、ソフトの両面で多くの支援を行ってきているが、例えば、東西経済回廊ではタイ、ラオスの両国境を結ぶ第2メコン国際橋の建設が代表的だ。メコン河をまたぐ1,600メートルのこの橋が完成したことで、ベトナムからラオス、タイ、ミャンマーに至る東西経済回廊の間断のない接続が実現した。また、南部経済回廊では、カンボジアのネアックルン橋(つばさ橋)の建設や、カンボジアの国道1号線や国道5号線の整備・改修などを支援してきた。

南部経済回廊上のカンボジアのメコン川に架かる橋長640メートルのネアックルン橋(つばさ橋) Photo: JICA

今後、メコン地域の開発協力において、さらに重要となるのが、ハード、ソフト両面からの連結性の強化だ。

メコン地域では、国を越えた産業集積や国家間での分業が進んでいるにも関わらず、地域全体としての課題が捉えられていないのではないかという問題意識から、JICAは、今年10月、南部経済回廊の現地調査チームを立ち上げ、「南部経済回廊」のうち、ベトナムのホーチミンからタイのバンコクまで約900キロメートルを実際に走行して調査を行った。

チームにはJICAの各国担当課だけでなく、インフラ整備や貿易円滑化の担当者や専門家、現地事務所員らが参加。3か国の目覚ましい成長を実感するとともに、国を横断する地域的な課題を複眼的に洗い出した。

例えば、ホーチミンとプノンペンをつなぐ国道一号線など、JICAの支援によって生まれ変わった国道では、移動時間の短縮など目覚ましい整備の効果を実感したものの、3か国が一体となった南部経済回廊全体としての機能はまだ十分に果たせておらず、国境における通関手続きの煩雑さ、国境管理にかかる実施体制及び法整備の欠如など、制度面での連結性という面では、まだまだ課題が残っていることが明らかとなった。

タイとラオスを結ぶ東西経済回廊上に建設された第2メコン国際橋 Photo: JICA

今回の調査に参加したJICA関係者は、今後JICAが複数の国や分野をまたいだ調整や仲介、協力を行うことで、さらに付加価値を生み出していきたいと意気込みを示す。例えば、税関分野を含む貿易円滑化に関する複数国を対象とした制度構築、あるいは能力強化のための広域技術協力や、経済回廊沿いのSEZ(特別経済特区)入居企業が課題とする産業人材の育成支援などを通じ、メコン各国の政府、企業にとってWin-Winの状況を作り出していきたいと抱負を語った。

日ASEAN友好協力50周年という節目に行われた「南部経済回廊」調査。この結果は、今後のメコン地域やASEAN地域全体と日本のパートナーシップにおいて重要な足がかりとなるだろう。JICAが築いてきた各国との信頼のアセットが、今後のASEANとの新しい関係性を紡いでいくに違いない。

* チベット高原の源流から中国雲南省を通り、ミャンマーとラオスの国境、タイとラオスの国境、カンボジア、ベトナムを通って、南シナ海へと流れる国際河川。全長は約4800km。
** 国境を越えて物流を促すために、特定の地域のインフラあるいは越境制度を整備することにより、輸送量増、輸送コストの低減、輸送日数の短縮を実現し、生産拠点と需要地を結ぶなどして相乗的な経済効果を得ていく構想。道路網の整備のほか、通信網の整備、通関手続の簡素化などもその開発に含む。

〈参考〉メコン地域におけるJICAによる運輸交通に関する国際協力事業の例

■「第2メコン国際橋架橋事業」

  • 協力期間:有償資金協力(借款契約(L/A)調印)2001年12月
  • 概要:メコン川流域開発の中でも、ラオスを経由し、タイ東北部からベトナム中部へとつながる東西経済回廊の整備には高い優先度が与えられていた。この協力では、メコン川においてタイとラオスを結ぶ、国際橋の建設を支援した。これにより、ベトナムからラオス、タイ、ミャンマーに至る東西経済回廊の接続を図り、沿線地域の流通の円滑化及び経済発展に貢献した。

■「ネアックルン橋梁建設計画」

  • 協力期間:無償資金協力(贈与契約(G/A)締結)2010年6月
  • 概要:カンボジアの国道一号線は、ベトナム−カンボジア−タイを結ぶ道路の一部である。この道路は途中、メコン川により分断され、川を渡るにはフェリーを利用するしかなく、長い時には7時間程度の待ち時間が発生していた。この協力では、分断地点であるネアックルンへの橋梁建設を支援し、物流・交通・交流などが円滑になり、カンボジアのみならず、メコン地域全体の経済発展に貢献した。

■「国道5号線改修事業」

  • 協力期間:2013年5月~
  • 概要:カンボジアでは内戦終結時から日本やアジア開発銀行などの支援を得て、物流の主要インフラである道路の修復が進められてきた。しかし、応急修復箇所の劣化や幅員不足等の箇所もあり、今後の経済発展による物流の増加に対応するためには、既存道路の改修が課題となっている。中でも国道5号線はメコン地域の産業の大動脈として機能することが期待されているため、この協力では、道路の改修及び拡幅、バイパスの整備等を行う。これにより、輸送能力の増強やタイとの物流の円滑化を図り、経済発展の促進に寄与する。

参考URL
https://www.jica.go.jp/oda/project/LS-4/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/1060240/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/CP-P25/index.html

経済成長するASEANを走破、日本の国際協力の意義とは vol.1 (newspicks.com)
https://newspicks.com/topics/jica/posts/19

税関支援を通じた連結性強化~国境手続の改善を通じて世界をつなぐ | ニュース・メディア - JICA
https://www.jica.go.jp/information/blog/1525786_21942.html

【メコン地域】南部経済回廊を走ってみた - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=Dhathwzgukg

【運輸交通】人々のためのインフラ ~アジアハイウェイ~(Full ver) - YouTube
https://www.youtube.com/watch?v=-Ly03jU0waI