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November 2023

ベトナム社会主義共和国の法整備に関する国際協力

  • 現行プロジェクトに関わる司法省などの実施機関が一堂に会する合同調整委員会 Photo: JICA
  • 地方の弁護士と行ったローカルな法整備に関する社会調査の様子 Photo: JICA
  • ベトナムのローカルな調停員を集めて開催したセミナーの様子
    Photo: JICA
  • マニュアルやハンドブック、判例制度などの研究報告書といったプロジェクトの成果物の一部
    Photo: JICA
現行プロジェクトに関わる司法省などの実施機関が一堂に会する合同調整委員会 Photo: JICA

ベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」)における「法整備・執行の質及び効率性向上プロジェクト」は、2021年1月から2025年12月までの期間で実施されており、1997年から続く法整備支援の一環だ。技術協力プロジェクト専門家(チーフ・アドバイザー)を務める河野龍三(こうの りゅうぞう)さんに、その概要を伺った。

ベトナムにおけるJICAの法整備支援活動は、1996年にプロジェクトを開始して以降、間断なく継続されてきた。開始当初のベトナム政府の実施機関は司法省のみだったが、その後、最高人民裁判所や最高人民検察院などの司法機関が加わり、2021年から開始されている現行プロジェクトからは、初めてベトナム唯一の政党である共産党の中央内政委員会も参加。「共産党の組織と関わることで、法・司法改革に関する党の方針についてダイレクトなやりとりができるようになった意味はとても大きい」河野さんは話す。

地方の弁護士と行ったローカルな法整備に関する社会調査の様子 Photo: JICA

「ベトナムと日本では、政治体制と統治機構が異なります。ベトナムはベトナム共産党という単一政党によって統治されており、日本は複数政党制です。また日本は三権分立を採用していますが、ベトナムは国会が最上位機関です。国会が持っている権限を各国家機関に分配するという考え方をしています。ですから、政治体制が異なる日本の法制度をそのまま運用できません。日本とベトナムの政治体制や法制度と比較してどの点が共通し、どのような形なら応用可能かを意識して支援をしています」

現行のプロジェクトでは、ベトナムの法・司法改革の促進と、国家の国際競争力の強化に寄与するため、法規範文書制度の質や、その効果的な執行が国際標準に照らして向上することを目標としている。基本法令の制定や改正、執務参考資料の作成や各種研究など、多種多様な課題に対し、日本から赴任した検察官や法務省出身の行政職、弁護士ら専門家が助言したり、セミナーを開催したりするなど、さまざまな活動を行っている。

最近では、高度経済成長期に入ったベトナムの経済発展に合わせた新法律の作成に関する相談が増えているそうだ。

「JICAが支援を開始した当初、欧米諸国の開発機関も入っていましたが、当時と同じ規模でシームレスに支援プロジェクトが続いているのは日本だけです。この25年以上、主要な法律の改正のときには意見を聞かれていますし、法整備の支援においては信頼関係を築けていると言えるでしょう」

ベトナムのローカルな調停員を集めて開催したセミナーの様子 Photo: JICA

外交関係樹立50周年を迎え、日本とベトナムの関係は、現在、極めて良好とも言われているが、ここまでに至る過程には、法整備支援に関する長年の信頼関係が土台にあると河野さんは指摘する。

「日本の法務省が協力する法整備支援は現在10カ国で行われていますが、ベトナムは経済発展に関してはトップグループに位置しています。今後は支援関係からパートナーシップ関係へ移行しつつ、お互いの発展に寄与しあうような転換点を迎えるのではないでしょうか」

マニュアルやハンドブック、判例制度などの研究報告書といったプロジェクトの成果物の一部 Photo: JICA

〈参考〉ベトナムにおけるJICAによる法整備支援と司法改革支援に関する国際協力の例

ベトナムは、1986年のドイモイ(ベトナム語で「刷新」を意味する)路線採用以降、市場経済化を支援する新たな法的枠組みの構築が急務となったことから、同国司法省は、各国政府及び国際機関の協力により法律の整備等を進めてきた。日本は、1996年度以降ベトナムにおける法整備支援プロジェクト等を開始し、①各種法律の立法作業への助言、②法体系整備への助言、③人材育成を3本柱とした技術協力等を実施してきた。

■「法整備支援プロジェクト(フェーズ3)」

  • 協力期間:2003年7月~2007年3月
  • 概要:民法を中心とした民商事分野立法支援・法曹強化を2本柱として各種法律の整備や、人材育成を支援。これにより、同国の法整備の体制の強化に寄与した。

■「2020年を目標とする法・司法改革支援プロジェクト」

  • 協力期間:2015年4月~2020年12月
  • 概要:民商事関連法案起草支援や法曹人材育成、法律実務家を対象にした実務マニュアルの共同作成などを支援。2013年憲法及び2020年を目標とした法・司法改革の趣旨に従い、適正かつ効率的な法規範文書の運用・適用の基盤整備に寄与した。

参考URL
https://www.jica.go.jp/oda/project/0601721/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/1400640/index.html