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November 2023

タイ王国における高齢化対策に関する国際協力

  • 高齢者の具体的なケアプランを作成するために聞き取り調査する専門家 Photo: JICA
  • 日本人専門家による地域の要介護高齢者の現状調査
    Photo: JICA
  • 病院で行われるリハビリテーションサービスの開発にも協力
    Photo: JICA
  • 現地の保健ボランティアが要介護高齢者の自宅を訪問
    Photo: JICA
  • 活動の成果を共有するワークショップの様子 Photo: JICA
高齢者の具体的なケアプランを作成するために聞き取り調査する専門家 Photo: JICA

タイ王国での高齢化対策に関する国際協力事業「高齢者のための地域包括ケアサービス開発プロジェクト」等について、独立行政法人国際協力機構(JICA)の国際協力専門員・中村信太郎(なかむらしんたろう)さんに話を伺った。

タイ王国(以下「タイ」)は、近年65歳以上の高齢者が総人口の約1割を占める高齢化社会*に突入している。JICAは、2007年から、同国の高齢者向けの保健医療・福祉サービスの現状分析を通じ「地域社会における高齢者向け保健医療・福祉サービスの統合型モデル」の策定と、同モデルの活用、普及に向けた支援を開始。2013年からは、より制度として整った公的サービスとしての介護サービスの導入に協力。ケアマネージャーなどの専門家を派遣し、現地で「ケアギバー」と呼ばれるボランティア人材及びマネージメント人材の育成を実施するとともに、高齢者介護に関するタイ政府への政策提言の作成などを支援した。

日本人専門家による地域の要介護高齢者の現状調査 Photo: JICA

JICAの取組と同時進行で、2016年からタイ政府は長期ケアや介護サービスを要介護者に提供する取組をスタート。このプロジェクトで育成されたケアマネージャーが活躍した。さらに、2018年以降は、高齢者に対するより包括的なサービスの実現に向けて、要援護状態に陥らないようなリハビリ医療など中間ケアの強化、病院を退院した患者へのフォローアップサービスの強化などを引き続き支援している。

病院で行われるリハビリテーションサービスの開発にも協力 Photo: JICA

こういったプロジェクトをJICAの支援を受けつつ実施する機関は中央政府だが、実際の介護の現場で出会うのは地域のコミュニティの人々だ。中村さんも実際の取組の中で、印象に残る出来事がいくつもあったそう。

「日本から専門家に来てもらい高齢者の自宅訪問をした際に、ケアをされていたご家族が涙を流されながら辛い実情を訴えられる場面に遭遇し、介護する側へのケアの重要性も身にしみて感じました。また、2017年に行った国際会議で、現地のケアギバーに成果を発表していただいた時に、プロジェクトを通して、自分が人に必要とされることの喜びや使命感を得たというお話をいきいきと語っておられる姿を見て、介護される側だけでなく、介護する側の課題も解決できるプロジェクトになったことを嬉しく感じました」

現地の保健ボランティアが要介護高齢者の自宅を訪問 Photo: JICA

タイも長期ケアの政策が進んできたり、学術機関による高齢者問題についての研究が進んだり、高齢者向けの介護ビジネスも始まっている。今後の日本からの支援も、産官学民の協力リソースがより重層的に協力する体制に移行していくのでは、と中村さん。

活動の成果を共有するワークショップの様子 Photo: JICA

「日本は急速な高齢化を早期に経験した『高齢化の課題先進国』。高齢者保健福祉での地方分権が進んでいるという点においても今後の方向性を先取りしています。また高齢化対策に関する協力は、一方通行の技術協力ではなく双方の『学び合い』の機会にもなります。パートナーとして問題に取り組み、他のASEAN諸国にも知見を共有していける可能性を模索していきたいですね」

* 現在では、65歳以上人口を「高齢者人口」、その総人口に占める割合を高齢化率(高齢者人口割合)」としていることが多い。また、国連の報告書に基づき、高齢化率7%を超えた社会を高齢化社会と呼ぶことがある。

〈参考〉タイにおけるJICAによる高齢化対策に関する国際協力の例

■「コミュニティにおける高齢者向け保健医療・福祉サービスの統合型モデル形成プロジェクト」

  • 協力期間:2007年11月~2011年11月
  • 概要:タイは、人口統計において、人口全体の増加率よりも高齢者人口の増加率の方が高くなった。この協力では、対象4県における高齢者の抱える課題、高齢者向け保健医療・福祉サービスの状況の分析と解決に向けての取組みを通じ、「コミュニティにおける高齢者向け保健医療・福祉サービスの統合型モデル」の策定と、同モデルの全国での活用に向けた発信を支援。

■「要援護高齢者等のための介護サービス開発プロジェクト」

  • 協力期間:2013年1月~2017年8月
  • 概要:タイは、東南アジア地域の開発途上国の中で最も高齢化が進んでいる。家族の介護疲れが社会問題化することも懸念され、制度として整った公的サービスとしての介護サービスの導入が求められた。この協力では、コミュニティベースの統合型サービスを活かしつつ、モデル介護サービスの実施を通して高齢者介護に関する政策提言の作成などを支援。

■「高齢者のための地域包括ケアサービス開発プロジェクト」

  • 協力期間:2017年11月~2022年10月
  • 概要:タイは2016年に、総人口のうち65歳以上の高齢者が全体の約1割を占める高齢化社会に突入した。一方、脳卒中等で入院した場合入院中のリハビリや退院後のフォローアップが適切に行われないため寝たきりになることも多く、リハビリの強化や切れ目のないケアが課題であった。この協力では、高齢者が要援護状態に陥らないように、リハビリの強化、ケアの連携を支援。

参考URL
https://www.jica.go.jp/oda/project/0613081/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/1202383/index.html
https://www.jica.go.jp/oda/project/1700422/index.html