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October 2023

竹の産地で竹工芸が堪能できる大分

世界的な建築家、坂茂(ばん しげる)さんが設計した大分県立美術館。竹工芸の編組(へんそ。竹ひごを緻密に編み上げる技法)による模様をモチーフとした外観がとても美しい。Photo: Hiroyuki Hirai
  • 竹工芸で初めての人間国宝となった生野祥雲齋《炎》(48.0cm×33.0cm 1957年)大分県立美術館蔵。Photo: 大分県立美術館
  • 大分県は日本屈指の真竹の産地。Photo: 大分県
  • 大分県竹田市に拠点を構える、国際的に活躍する竹藝家の中臣 一(なかとみ・はじめ)さん。日本国内唯一の竹工芸訓練施設「大分県立竹工芸訓練センター」の修了生。Photo: Uwe Röttgen & Katharina Zettl
  • 熱湯の入った登り窯で竹の油抜きを行い、竹細工用に加工する作業「製竹」を見学する海外旅行客。Photo: 大分県
  • 2023年に開催の体験型のアートイベント「竹会(たけえ)」の会場。Photo: 大分県
  • 竹工芸のワークショップなど気軽に竹に触れる体験もチャレンジしたい。Photo: 別府市細工伝統産業会館
  • 大分県立美術館のミュージアムショップでは県内で活躍する竹工芸作家が制作したオリジナルグッズもある。旅の土産に人気。Photo: 大分県立美術館

日本列島の南西部、九州地方の東岸に位置する大分(おおいた)県。良質な竹の産地で、近代以降、竹細工、竹工芸が発展した。竹文化を始めとした地域文化に触れ、楽しんでもらえる観光が広がりを見せている。大分県の担当者に話を聞いた。

大分市は大分県のほぼ中央にあって、別府湾を望み、温暖な気候と自然に恵まれた東九州の要地。そこで、ひときわ存在感を放つのが大分県立美術館だ。

「大分県は真竹(マダケ)*の生産量が日本一。国指定の伝統的工芸品でもある「別府(べっぷ)竹細工」をはじめ、日用品から土産物、さらには芸術品まで、良質な竹は様々に活用され、幅広く愛されてきました。そういった風土から、国内外で活躍する竹工芸家を輩出しました。大分県立美術館では竹工芸をコレクションしており、いわゆる人間国宝**となった生野祥雲齋(しょうの・しょううんさい。1904~1974)の作品を中心とした300点をこえる所蔵品は国内最大級であり、世界に誇る日本の竹工芸作品が堪能できます」

竹工芸で初めての人間国宝となった生野祥雲齋《炎》(48.0cm×33.0cm 1957年)大分県立美術館蔵。Photo: 大分県立美術館
大分県は日本屈指の真竹の産地。Photo: 大分県
湯けむりがたちあがり温泉情緒たっぷりの別府温泉。近代以降、温泉を訪れる湯治(とうじ***)客の実用品や土産品として竹細工が盛んになった。Photo: 大分県

こう説明するのは、大分県企画振興部芸術文化スポーツ振興課の蔵本昂平(くらもと・こうへい)さんだ。

竹工芸は、茶道、華道といった和の文化と深く関わりながら発達したことから日本を象徴するコンテンツだ。近年では、現代アートの一つとして海外の美術愛好家からも高く評価される。

別府竹細工の最大の特徴は細くしなやかな竹ひごを緻密に編み上げる編組(へんそ)と呼ばれる技法。全て手作業で作られる。写真は、茶道具のひとつ、御所籠(ごしょかご)。Photo: 大分県

「作品鑑賞だけでなく、作品制作現場の見学や竹工芸家と言葉を交わして交流することも可能です。大分県は、別府や湯布院(ゆふいん)といった昔から著名な温泉地を持ち、一流の和のおもてなしをする旅館もありますので、海外から来られる日本の文化に関心の高い訪問客が満足できる宿泊先も多くあるのも魅力かと思います」

大分県竹田市に拠点を構える、国際的に活躍する竹藝家の中臣 一(なかとみ・はじめ)さん。日本国内唯一の竹工芸訓練施設「大分県立竹工芸訓練センター」の修了生。Photo: 竹藝家・中臣一
熱湯の入った登り窯で竹の油抜きを行い、竹細工用に加工する作業「製竹」を見学する海外旅行客。Photo: 大分県

「大分県立美術館は、今年からの新しい取組「竹会 <たけえ> OITA BAMBOO ART & LIGHTS 2023」を開催しました。気軽に竹に触れて楽しめる体験型のアートイベントです。なぜ別府地域で竹工芸が栄えたのかなど、地域の自然や歴史と関連づけて地域文化資源である竹工芸の大型オブジェ展示やワークショップ、ライトアップなどを行いました。それは、芸術性のみではなく、竹工芸が栄える機運を醸成した地域の風土への興味関心を促したいという狙いもあります。また同時期に、これに関連して大分市に隣接する臼杵(うすき)市の『うすきの竹宵(たけよひ)』や、大分市から南西へ車で1時間ほどの竹田市の『竹楽(ちくらく)』など、県内で行われている竹と灯りのイベントにも足を運んでもらいたいです。

「うすきの竹宵(うすきのたけよひ)」では、毎年約2万本が制作される竹ぼんぼりのやさしいあかりが城下町をやさしく灯す。Photo:大分県
2023年に開催の体験型のアートイベント「竹会(たけえ)」の会場。Photo: 大分県

一方、竹や工芸だけでなく、各所に国宝を含む多くの仏教美術が遺されている国東(くにさき)半島を中心に、現代アーティーストが滞在して、そこで作品を制作するプロジェクトを実施するなど、地域の歴史文化遺産と現代アートがコラボしたイベントも実施してアートの世界へ新風を吹き込んでいます。そして、今、産学が連携して、大分県独自の文化や芸術に触れることを目的した観光旅行、カルチャーツーリズムの情報発信も進めています」

大分県を訪れた際は、まずは県立美術館に行って多くの作品に触れてみる。次に、自分自身が感銘を受けたり、興味を持った作品を生み出した作家の出身地や工房のある地へと足を運び、その独自の風土や文化を、見て、体験したりして知見を広げるといった旅もまた楽しいかもしれない。様々なイベントの開催時期に訪れるのもおすすめだ。****

竹工芸のワークショップなど気軽に竹に触れる体験もチャレンジしたい。Photo: 別府市細工伝統産業会館
大分県立美術館のミュージアムショップでは県内で活躍する竹工芸作家が制作したオリジナルグッズもある。旅の土産に人気。Photo: 大分県立美術館

* 日本では、北海道を除く各地に分布する多年生常緑竹。タケ類の中で最も弾力性と加工性のある稈を持ち、実用のため古くから日本各地で栽培される。
** 日本政府から「重要無形文化財(じゅうようむけいぶんかざい)」の保持者として認定された、無形の「わざ」を最高度に体得(たいとく)している人のこと。人間国宝は通称である。
*** 温泉地に長期に滞在して、温泉の効能で病気やケガなど症状改善や療養を行うこと。
**** 大分県立美術館 日本語、英語、韓国語、中国語対応。2023年度初めての試みとして、企画展での英語によるボランティアガイドを導入。学芸員によるコレクション特別鑑賞会は日本語、英語で企画している。