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October 2023

あわ文化を体験する観光

  • 吉野川。「四国三郎(しこくさぶろう)」の異名を持つ。川が多い土地柄、水上タクシーを観光地間の交通手段として利用すると、水都を体感できる。
    Photo: 一般社団法人イーストとくしま観光推進機構
  • 阿波おどり会館で披露されている踊りの一例
  • 藍染の原料である藍の葉。花が咲く直前の葉を刈り、細かく刻み乾燥させる。Photo: 藍住町教育委員会
  • 藍染料の原料・すくも「阿波藍」。筵(むしろ)で覆い約100日かけて発酵させて完成させる。Photo: 藍住町教育委員会
  • 藍染した布の一例
  • 人形の頭と右手を動かす「主遣い」、左手を動かす「左遣い」、足を動かす「足遣い」と、役割が分かれている。Photo: 徳島県立阿波十郎兵衛屋敷
  • 常設の阿波人形浄瑠璃の舞台「阿波十郎兵衛屋敷」。Photo: 徳島県立阿波十郎兵衛屋敷
  • 女踊りは浴衣に編み笠を身につけて、同じ振り付けを集団が一糸乱れぬよう踊る、一体的な美が特徴。8月の阿波おどりの様子。Photo: 徳島市
吉野川。「四国三郎(しこくさぶろう)」の異名を持つ。川が多い土地柄、水上タクシーを観光地間の交通手段として利用すると、水都を体感できる。Photo: 一般社団法人イーストとくしま観光推進機構

かつて「阿波国(あわのくに)」と呼ばれた徳島県は、「阿波おどり」*開催の地として有名だ。また、高品質の藍染の染料「阿波藍」**や、国の重要無形文化財に指定されている「阿波人形浄瑠璃」***もよく知られており、その三大あわ文化****を体験する観光について、徳島県庁の文化観光推進の担当者に話を聞いた。

徳島県には、「暴れ川」と言われた吉野川が東西を貫いて流れており、台風が襲来する季節には、たびたび洪水を起こし被害を出していた。こうしたことから吉野川の水を水資源として活用するのは難しく、吉野川流域の一部は稲作が難儀であり、その代わりに、染料の原料となる植物「藍(あい)」の栽培が盛んになった歴史背景がある。収穫した「藍」を発酵させた藍染料「すくも」を売り出すと、その品質の高さから全国に販路を広げ、1800年代には莫大な利益を生むようになり、藍の栽培も盛んになった。こうして、徳島産のすくもは「阿波藍(あわあい)」として有名になった。「すくも」の製造には、長い月日がかかり、特殊な技術と綿密な管理が必要であり、その伝統技術は極めて高度だ。藍住町(あいずみちょう)にある藍住町歴史館「藍の館」に足を運ぶと、「ジャパンブルー」として知られる日本を代表する色彩を生み出す藍の栽培や歴史、道具の展示も見ることができる。ここでは、藍染体験もできるという。

藍染の原料である藍の葉。花が咲く直前の葉を刈り、細かく刻み乾燥させる。Photo: 藍住町教育委員会
藍染料の原料・すくも「阿波藍」。筵(むしろ)で覆い約100日かけて発酵させて完成させる。Photo: 藍住町教育委員会
藍染した布の一例

この藍がもたらした経済力を背景に、芸事を好んだ阿波の藍商人たちにより「阿波人形浄瑠璃(あわにんぎょうじょうるり)」という人形芝居が発展した。語りと三味線、3人で1体の人形を操り、物語を表現する形式は世界の人形劇の中でも珍しい。徳島県で文化観光に携わる清水公美子さんはこう語る。

「今は、徳島市内の阿波十郎兵衛屋敷(あわじゅうろうべえやしき)という人形浄瑠璃の拠点で毎日見られます。県内の神社境内に多く残る、野外劇場をモデルにした開放的な舞台です。その舞台上部についたL E Dパネルに、英語と日本語の字幕表示もあり、海外の方だけでなく、伝統芸能になじみのない日本人にも分かりやすいと好評です」。館内では、人形遣いの体験もできるという。

人形の頭と右手を動かす「主遣い」、左手を動かす「左遣い」、足を動かす「足遣い」と、役割が分かれている。Photo: 徳島県立阿波十郎兵衛屋敷
常設の阿波人形浄瑠璃の舞台「阿波十郎兵衛屋敷」。Photo: 徳島県立阿波十郎兵衛屋敷
舞台上部のLEDパネルの日英両方の字幕により、初心者でも英語を解する外国人でも楽しむことができる。Photo: 徳島県立阿波十郎兵衛屋敷

そして、徳島市で毎年8月に開催され、国内外から100万人を超える観光客が訪れる、徳島を代表する伝統芸能「阿波おどり」。これも、近代において、藍の取引で全国を回っていた藍商人によって、各地の文化が取り入れられたとも言われている。

徳島市内にある「阿波おどり会館」では、年間を通して、その踊りを見ることができる。「昼公演では、専属の連(れん*****)が、夜公演は日替わりで有名な連が踊りを披露します。最後に観客も一緒に踊る時間もあり、本場の阿波おどりも体験することができますよ」と清水さん。

このように、徳島県では、三大あわ文化の「阿波藍」「阿波人形浄瑠璃」「阿波おどり」それぞれをテーマとした施設があり、そこで、体験プログラムが用意されている。

自ら藍染めを行い、阿波人形浄瑠璃の人形にじかに触れ、阿波おどりを楽しむ、そんな徳島ならではの体験は、旅の忘れがたい思い出になるにちがいない。

女踊りは浴衣に編み笠を身につけて、同じ振り付けを集団が一糸乱れぬよう踊る、一体的な美が特徴。8月の阿波おどりの様子。Photo: 徳島県
阿波おどり会館で披露されている踊りの一例

* 400年前から踊りの原型はあったというが、「阿波おどり」という名称が使われ定着したのは第2次大戦後のこと。
** 天然の染料。タデ科の植物で徳島県が一番の産地。徳島は発酵させた藍の葉=すくも作りが発達した。すくもの中に凝縮された青色を水に溶け出させることによって染め液を作り、染めたいものをひたして空気に触れさせることを繰り返して、色付ける。
*** 太夫という歌による語りと、三味線による伴奏にあわせて、人形1体につき3人で人形を操る、人形劇。17世期から盛んになった日本の伝統芸能の一で国の重要無形民俗文化財に指定されている。
**** 日本政府による文化観光地域推進計画として、「阿波おどり」、「阿波藍」、「阿波人形浄瑠璃」を「三大あわ文化」と称している。
***** 「連」とは、阿波おどりを踊る団体のこと。チーム名