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October 2023

ガラスのまち小樽の「小樽芸術村」

  • 小樽運河の昼の様子。歩道が整備され、運河沿いを散歩することができる。
  • 市内に現存する木骨石造倉庫の中でも大きなものを利用した西洋美術館。19世紀後半から20世紀初頭に欧米で制作されたステンドグラスや、アール・ヌーヴォーやアール・デコ様式のガラス工芸品、家具などを展示。Photo: 小樽芸術村
  • 旧北海道拓殖銀行小樽支店の建物を利用した似鳥美術館。
    Photo: 小樽芸術村
  • 1階にはアール・ヌーヴォー様式を代表するルイス・C・ティファニー****の教会ステンドグラスを展示。虹色に輝くガラスやモザイクが美しい。Photo: 小樽芸術村
  • 金地の大画面に縁起のよいモチーフである孔雀と牡丹(ぼたん)花が描かれている。谷文晁(たに ぶんちょう)「孔雀図」衝立(ついたて)作品。125.5×241.0cm。制作年不明)Photo: 小樽芸術村
  • 日本政府から重要文化財に指定された旧三井銀行小樽支店。1927年から2002年まで銀行として営業していた建物を公開。
    Photo: 小樽芸術村
  • 当時としては最先端の構造建築であり、当時の姿のままの貸金庫も見学できる。Photo: 小樽芸術村
  • 吹き抜けの天井に映し出されるプロジェクションマッピング。
    Photo: 小樽芸術村
小樽運河の昼の様子。歩道が整備され、運河沿いを散歩することができる。

日本列島の最北端にある北海道。日本海に面する、その西海岸のほぼ中央に位置し、19世紀後半ばから20世紀前半にかけて北海道の物流の拠点として繁栄したのが小樽(おたる)市だ。市内には当時建設された貴重な建築が今も残り、歴史や芸術文化を伝承する場所として活用されている。

小樽市は、北海道の中心都市・札幌(さっぽろ)市の北西に隣接する港町だ。北海道最大の拠点空港・新千歳(しんちとせ)空港からは電車で約75分、スキーリゾートのニセコへは車で約1時間30分のアクセスだ。北海道は、19世紀後半からの日本の近代化を支えた石炭の一大産出地であり、その積み出し港が小樽港であった。更にはニシン漁もかつて盛況であり、小樽は20世紀初頭には、北海道の海の玄関口として全国屈指の物流の拠点となり、隆盛を極めた。当時、小樽市の運河沿いには多くの倉庫が建設され、金融機関や商社も進出し、現在でも多くの近代建築が残っている。その建築物の多くは、往時の繁栄にふさわしい、その時代屈指の建築家による作品であるという。

2016年、それらの歴史的建造物を利用して「小樽芸術村(おたるげいじゅつむら)」が開設された。小樽芸術村学芸員の磯崎亜矢子(いそざき あやこ)さんは語る。「小樽に残る多くの近代建築は、民間人が主体となって保存に努め、街づくりに活用してきました」。

近いエリアにまとまっている歴史的建造物を美術館などに活用。五つの建物があることから、村になぞらえ「小樽芸術村」と呼ばれる。イラスト提供: 小樽芸術村

小樽芸術村では、「ガラスのまち」*とも称される小樽に親和性が高いステンドグラスや、アール・ヌーヴォーやアール・デコ様式**のガラス製の美術品を多く収蔵している。収蔵作品は500点以上に及び、随時展示替えをしているという。「小樽が急速に発展したときと同時代の西洋の美術品や工芸品を中心に、浮世絵などの日本の古美術も収蔵しています。ご覧いただくと、世界中で新たな表現が次々と生み出された時代のエネルギーを感じていただけると思います」。ガラスのコレクションはアジアからの、日本美術はヨーロッパからの観光客に人気だそう。ガラスのコレクションの前では、記念写真を撮る観光客の姿が多く見られるという。

ステンドグラス美術館は、19世紀後半から20世紀初頭にかけて英国で制作された実際に教会の窓を飾っていたものが中心。
1923年に建てられた穀物を収める倉庫(写真後ろ)と事務所(写真手前)を活用している。倉庫は防火性の高い木骨石造***と言われる建築構造。Photo: 小樽芸術村
旧北海道拓殖銀行小樽支店の建物を利用した似鳥美術館。Photo: 小樽芸術村
1階にはアール・ヌーヴォー様式を代表するルイス・C・ティファニー****の教会ステンドグラスを展示。虹色に輝くガラスやモザイクが美しい。Photo: 小樽芸術村
金地の大画面に縁起のよいモチーフである孔雀と牡丹(ぼたん)花が描かれている。谷文晁(たに ぶんちょう)「孔雀図」衝立(ついたて)作品。125.5×241.0cm。制作年不明)Photo: 小樽芸術村
市内に現存する木骨石造倉庫の中でも大きなものを利用した西洋美術館。19世紀後半から20世紀初頭に欧米で制作されたステンドグラスや、アール・ヌーヴォーやアール・デコ様式のガラス工芸品、家具などを展示。Photo: 小樽芸術村

さらに、訪れる人たちに、より楽しんでもらえるイベントも増えている。旧三井銀行小樽支店1階フロアではプロジェクションマッピングを実施。北海道の四季をイメージした光が石膏飾りの天井に映し出され、幻想的な風景を鑑賞できる。また、同施設内の趣あるかつての営業室で講演会や夜間コンサートを開催するなど、様々なイベントが企画されている。

日本政府から重要文化財に指定された旧三井銀行小樽支店。1927年から2002年まで銀行として営業していた建物を公開。Photo: 小樽芸術村
当時としては最先端の構造建築であり、当時の姿のままの貸金庫も見学できる。Photo: 小樽芸術村
吹き抜けの天井に映し出されるプロジェクションマッピング。Photo: 小樽芸術村

「たくさんの海外からのお客様が小樽近くの札幌やニセコなどを訪れていますが、そういった方々にも小樽の魅力を知っていただきたいです。現在、世界各地からの来訪客に対応するため、小樽芸術村は、2024年3月末までに日本語や英語のほか3言語(韓・中繁・中簡)の案内表示や音声ガイド導入を予定するなど準備を進めています」。さらに、海外客の来訪は多いものの、日本の伝統的な美術作品に触れる機会が少ない近隣のニセコエリアに小樽芸術村の芸術コレクションの高精細なレプリカを展示することで、彼らをニセコから小樽に誘致する計画も進んでいるという。小樽の歴史を感じ、そこで培われた芸術や文化を満喫しに、ぜひ一度、小樽に足を運んでみてもらいたい。

* 20世紀初め、物流の中心地だったことから梱包材の需要も増え、液体や粉体の容器として大量のガラス容器を生産された。20世紀後半、プラスチックに押され衰退するが、ガラス商が木骨石造倉庫を店舗に利用したことが観光客に人気となりガラスのまちのイメージができたといわれている。
** アール・ヌーヴォー様式は、19世紀から20世紀初頭にかけて、ヨーロッパで流行した芸術様式。曲線を多用し、花や植物などのモチーフが特徴。アール・デコ様式は、ヨーロッパ及びアメリカで流行し、直線的で幾何学模様をもちいたデザインが特徴。
*** 小樽でよく見られる石造りの建物の多くは木骨石造。木材で骨組みを作り、外壁は石を積み上げて柱に固定している。建物内部の温度変化が少ないため、倉庫に使われていた。
**** アメリカを代表するアール・ヌーヴォー様式のガラス工芸の第一人者。ステンドグラスや、モザイクのガラスランプなどで知られている。