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September 2023

世界的に稀有な木造アーチ構造を持つ錦帯橋

  • 翼を広げたように連なる木造アーチをどっしりと支える石積みの橋脚と石を敷いた護床。奥の山頂に岩国城天守(てんしゅ)が見える。 Photo: 岩国市文化スポーツ振興部錦帯橋課
  • 今も城下町の面影が残る錦帯橋の南側のエリア。昔ながらの町屋がならぶ町並みを楽しめる。
    Photo: 本家まつがね岩国市観光交流所



  • 秋は紅葉、冬は雪化粧、春は桜並木、夏は鵜飼(うかい***)。四季折々、季節の風物詩に調和した景観が広がる。 Photo: 岩国市文化スポーツ振興部錦帯橋課
  • 歌川広重『六十余州名所図会・周防岩国錦帯橋(ろくじゅうよしゅうめいしょずえ・すおういわくにきんたいきょう)』 Photo: 岩国徴古館
翼を広げたように連なる木造アーチをどっしりと支える石積みの橋脚と石を敷いた護床。奥の山頂に岩国城天守(てんしゅ)が見える Photo: 岩国市文化スポーツ振興部錦帯橋課

日本を代表する伝統的な橋の一つ「錦帯橋(きんたいきょう)」は、2023年で創建350年を迎える。今もなお創建時の建造技術は守られ続け、同じ場所でほぼ同じ姿であり続ける、この美しい橋を訪ねた。

日本の本州の西端、山口県の東に位置する岩国市(いわくにし)。水のきれいな清流、錦川(にしきがわ)の下流域にかかる五連アーチの木造橋が錦帯橋だ。全長193.3m、幅5m。国の名勝*に指定され、日本の伝統的な橋の代表として必ず挙げられる。岩国市立博物館 岩国徴古館(ちょうこかん)学芸員の松岡智訓(とものり)さんに橋にまつわる歴史背景や魅力について話を聞いた。

「もともと岩国は17世紀の初頭以降に造成された城下町です。錦川を挟んで山側の地形が防衛に有利として山城を築き、ふもとに政務の中心を置きました。そして、山側は土地が狭いため、町を川の対岸にまで広げて武家屋敷や商家をおきました。そこで、城下町を結ぶ橋が必要となりますが、普段は水深が浅く穏やかなこの錦川も一旦増水すると急激な流れに変貌。領主は、「急流にも流されない橋」を作るために試行錯誤を繰り返し、1673年に錦帯橋を創建したのです。石積みの橋脚が支える、緻密な木組(きぐみ)の技法による木造アーチ構造(写真参照)を持つ橋は、精巧かつ独創的で、世界唯一のものです」

下から見上げると、緻密な木組の技法を間近に見て取れる。桁(けた)、楔(くさび)、梁(はり)、棟木(むなぎ)などの部材を巧みに組み合わせた独自のアーチ構造**だ。
Photo:岩国市文化スポーツ振興部錦帯橋課

創建の直後の1674年の洪水と、1950年の台風で2度の流失がありながらも、その都度再建し、構造を変えることなく劣化した部分を架け替えることで引き継がれてきたという。「平成の架替(かけかえ)」事業にて2004年に現在の橋が完成。錦帯橋は今なお同じ場所でほぼ同じ姿であり続けている。




秋は紅葉、冬は雪化粧、春は桜並木、夏は鵜飼(うかい***)。四季折々、季節の風物詩に調和した景観が広がる。 Photo: 岩国市文化スポーツ振興部錦帯橋課

2021年、「錦川下流域における錦帯橋と岩国城下町の文化的景観」が国の重要文化的景観に選定された。

「19世紀、すでに歌川広重(うたがわひろしげ)や葛飾北斎(かつしかほくさい)などの著名な浮世絵師たちも錦帯橋を名所として描いています。錦帯橋の美しさは、時代を超えて多くの人々を魅了してきました」

四季折々の彩り豊かな自然の景観との取り合わせの美しさを楽しめるのも錦帯橋の魅力だ。桜や紅葉、雪化粧。夏の風物詩「錦帯橋の鵜飼」など、それぞれの季節で全く違った表情を見せてくれるので、何度訪れても見飽きることがない。さらに、橋の南側へ渡り、城下町の名残を残す伝統的な町をそぞろ歩くのも楽しいだろう。

歌川広重『六十余州名所図会・周防岩国錦帯橋(ろくじゅうよしゅうめいしょずえ・すおういわくにきんたいきょう)』 Photo: 岩国徴古館

「現在、岩国市は錦帯橋の世界遺産登録をめざして活動しています。先人達の熱意と努力により、受け継がれてきたこの美しい橋を後世へと遺していくのが願いです」

今も城下町の面影が残る錦帯橋の南側のエリア。昔ながらの町屋がならぶ町並みを楽しめる。 Photo: 本家まつがね岩国市観光交流所

ロープウェイで城山の山頂に登り、眺望のよい岩国城天守から橋を愛でるもよし。橋のたもとで組み木の精緻な構造を見上げるもよし。そして、実際にリズミカルに連なる五連アーチの橋を渡ってみるもよし。日本を訪れた際は、ぜひとも岩国まで足をのばし、昔から変わらないこの美しい橋の魅力に触れてみてほしい。

錦帯橋全景 Photo: 岩国市文化スポーツ振興部錦帯橋課

* 日本における文化財の種類の一つで、芸術上または観賞上価値が高い土地について、日本国及び地方公共団体が指定を行ったもの。
** 桁を橋脚からアーチ中央に向かって角度をつけながらせり出し重ね、その角度の変化で生まれる隙間を楔で埋めている。また、平行に並んだ5本の桁は、梁で横方向に固定。こうして各橋脚からせり出した桁同士はアーチの中央部にて棟木で繋ぐ。
*** 訓練した鳥・ウを使ってアユなどの魚をとる伝統的な漁法。