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July 2023

廃棄米を使ったフードロスペーパー

  • 箔押しを施す事によって、自然な風合いと高級感が一段と際立つkome-kami BOX
  • kome-kamiが行うフードバンクへの支援
  • 紙の中間原料のパルプと廃棄米を混ぜ合わせている様子
  • 高温で圧力をかけ、滑らかな曲面と表面に仕上げている様子
  • kome-kami BOXの箔押し
箔押しを施す事によって、自然な風合いと高級感が一段と際立つkome-kami BOX

米は日本人の主食であることから、全国で生産されており、多くの自治体や企業が災害時などの非常用として備蓄している。しかし、一定の期間が過ぎると品質や風味の劣化等があり、食用としては適さなくなるため、廃棄するしかなかった。そのような廃棄される米を使って、価値ある紙に生まれ変わらせる技術を老舗紙問屋が開発した。

廃棄米を原料の一部に用いたフードロスペーパー「kome-kami」を開発したのは、奈良県で1890年に創業した老舗紙問屋である株式会社ペーパル(以下「ペーパル」)だ。企業や自治体が廃棄する予定の災害用備蓄米や、輸送の途中で袋が破れたなどの理由でやむを得ず販売できなくなった米をパルプに配合し、2021年3月より販売を開始した。

紙の中間原料のパルプと廃棄米を混ぜ合わせている様子

開発のきっかけの一つは、フードバンクの活動への協力にある。フードバンクは、主に安全に食べられるにもかかわらず、包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどの理由で、流通に出すことができない食品を企業等から寄贈を受けて、必要としている施設や団体、困窮世帯に無償で提供する活動をする主体を言う。世界中、様々な国でフードバンク活動が行われているが、日本では今世紀初頭から、いくつかの団体で活動が始められた。

kome-kamiが行うフードバンクへの支援

こうした中で、フードバンクの顧問を務めている滋賀大学の山下悠(やました・ゆう)准教授と、ペーパル取締役の矢田和也(やだ・かずや)さんとが出会ったのは、2020年。矢田さんは、山下准教授を通じて食品ロスの現状やフードバンクの活動を知ることで、その解決の一助となるような商品の開発が自社でできないかを考え、破棄される米を紙づくりに利用できないかを思い立ったという。古来、日本では、浮世絵*の発色をよくしたり、にじみをなくしたりするために紙に米を配合することが行われてきた。しかし、時代の流れとともに化学薬品に置き換わり、その技術は途絶えていた。そのため、米を使った紙の開発は一からの取組で、試行錯誤の連続だった。デンプン質の米は粘性が強く、パルプが製紙機にくっついて思うように扱えない。均一な厚みを出すのも困難で、紙に穴が開いてしまうこともあった。

高温で圧力をかけ、滑らかな曲面と表面に仕上げている様子

そうした困難を、1年以上を要して乗り越え、2021年3月にフードロスペーパー「kome-kami」の商品化に成功した。その後も技術的な改良を重ね、2023年5月に、kome-kamiの新製品として、継ぎ目のないなめらかな表面を実現した紙の箱「kome-kami BOX」を開発。紙そのもののもつ豊かな風合いと、米由来のしっとりとした質感が特長で、艶やかな米を思わせる自然な白さがパッケージの中に入れる商品を引き立たせる。製品名のフードロスペーパーには、「食品ロスをなくしていきたい」「廃棄する際のコストを価値に変換することで、食品ロスをなくす運動を応援したい」という思いが込められており、kome-kamiの売上の1%はフードバンクへ寄付という形で還元されている。kome-kamiという紙素材を通して、日本に昔からある『もったいない』の精神を広めることで、一人ひとりの行動変容を促し、食品ロスのさらなる削減を目指すというペーパルの考えに共感した企業が、パッケージや名刺、パンフレットなどでkome-kamiを使用するなど、その用途は広がりつつある。

kome-kami BOXの箔押し

リサイクルからアップサイクルへ。捨てられるはずだった素材に加工を施し、デザイン性や実用性を高めて、新しい製品として生まれ変わらせる。素材をできる限り活かして製品化することで、リサイクルに比べてエネルギー消費が抑えられ、環境負荷も低減できる点も利点だ。

ペーパルによるフードロスペーパーの試みは、米以外の素材にも広がっており、クラフトビールを醸造する際に廃棄されているモルト粕を用いたクラフト紙「クラフトビールペーパー」や、ニンジンの皮を使った紙素材「vegi-kamiにんじん」などの新製品を打ち出している。「すべての廃棄を価値あるものに」という思いのもと、挑戦は続く。

kome-kamiが目指す循環型社会

* 17世紀から19世紀ごろに盛行した日本の絵画様式の一つ。表現形式としては木版画を主とした。