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July 2023

風鈴の音を楽しむ夏まつり

  • 磁器ならでは高く澄んだ音色を楽しみたい鍋島焼の風鈴
    Photo: 伊万里鍋島焼協同組合
  • 2023年で18回目を迎える「風鈴まつり」
    Photo: 伊万里鍋島焼協同組合
  • 透明感のある白磁に手書きで赤や青、黄色などを基調に絵付けされた風鈴。 Photo: 伊万里鍋島焼協同組合
  • 三方を山で囲まれた大川内山 Photo: 伊万里鍋島焼協同組合
  • 透し彫りを施した風鈴 Photo: 伊万里鍋島焼協同組合
  • 磁器製の風鈴の鐘の絵付け Photo: 伊万里鍋島焼協同組合
磁器ならでは高く澄んだ音色を楽しみたい鍋島焼の風鈴 Photo: 伊万里鍋島焼協同組合

日本では、夏になると、「風鈴」と呼ぶ釣鐘形の小さな鈴を軒先につるして、風に揺れると奏でる涼やかな音を楽しむ。三方を山に囲まれた佐賀県伊万里市大川内山(おおかわちやま)では、夏、伝統的な磁器*製の風鈴の音色を楽しむまつりが開催されている。

現在、佐賀県伊万里市で作られている磁器を主とする焼き物を「伊万里焼」という。その伊万里市南部の大川内山には、30窯元が集まり伊万里焼の中心となっている。この大川内山で毎年夏に開催されているのが、「風鈴まつり」だ。伊万里鍋島焼協同組合の原貴信(はらたかのぶ)さんは、この風鈴まつりについて語る。

「期間中は家々の軒先や、磁器店の中などに1000個以上の風鈴が飾り付けられて、音で涼しさを感じてもらうイベントです。2004年の開催当初は数種類の風鈴だけでしたが、年々増えて今では500種類以上の風鈴が登場するようになりました」

2023年で18回目を迎える「風鈴まつり」 Photo: 伊万里鍋島焼協同組合

日本の風鈴の鐘は、金属製、陶器製**、ガラス製など様々な素材のものがあるが、この風鈴まつりのものは、石を原料とした磁器製だ。鐘の先には色とりどりの短冊が付いており、風で短冊が揺れると、短冊がぶら下がっている磁器製の舌(ぜつ)が鐘に当たって、高い澄んだ音色がする。

透明感のある白磁に手書きで赤や青、黄色などを基調に絵付けされた風鈴。 Photo: 伊万里鍋島焼協同組合

「焼物の風鈴は一つ一つ音色が変わるのが面白いところ。鐘が小さい方が音が高くなりますし、透し彫りを施すとより高い音色になります」

磁器は、そもそも素地がガラス質であることから、たたくと金属的な音がするので、風鈴にすると、より澄んだ涼しげな音を奏でるという。多くの人々は、そんな音を聞くことを目当てに風鈴まつりを訪れる。

伊万里市は、日本における磁器の代表的な産地の一つとして知られているが、その中でも大川内山の歴史は格別だ。

三方を山で囲まれた大川内山 Photo: 伊万里鍋島焼協同組合

現在の佐賀県を統治していた鍋島藩は、1675年、大川内山に新たな藩窯を設置した。そして、藩主の所用品を始め、徳川将軍家への献上品など、当時としては最高級の磁器作品を作りだしていった。そのため、伊万里焼の中でも、大川内山で作られる磁器を特に藩主の家名をとって「鍋島焼」***とも称するようになった。

現在でも、大川内山には、鍋島焼の技法はもちろん、新たな技術も取り入れた多くの窯元があり、伊万里焼の中心となっている。そのような由緒ある大川内山の風鈴まつりで飾られる風鈴について原さんに伺った。

「絵付けは、手描きのものが多く、細かい手作業で行います。透かし彫りを施した風鈴も作成しております」

透し彫りを施した風鈴 Photo: 伊万里鍋島焼協同組合

さらに風鈴まつりの楽しみ方として、音色に注目して欲しいそうだ。

「磁器の風鈴は1個1個音が違うので、自分の体感に合う風鈴を探すのも楽しみの一つです。また風鈴の絵付け体験でオリジナル風鈴を作成することができます。ぜひ当地にお越しいただいて、伊万里焼だけなく、三方山に囲まれた景観と風鈴の音色で涼を感じていただけたらと思います」

磁器製の風鈴の鐘の絵付け Photo: 伊万里鍋島焼協同組合

かつての鍋島藩の藩窯の伝統を大切に守り続ける30余の窯元が作った風鈴たちが、深い緑の山々に囲まれた大川内山に涼しげな音色が響かせる贅沢な夏の風物詩を心ゆくまで味わいたいものだ。

* 土ではなく、石の粉などを原料にして形を作り、釉薬(ゆうやく)をかけて焼いた器。素地の色は基本白で、その白さを生かし、鮮やかな色絵が施される。なお、陶器は、有色粘土を素材とした焼きもの。焼き上がった際に土の色味が出る。
** 陶器とは有色粘土を素材とした焼きもの。 焼き上がった際に土の色味が出て、全体に厚みがあるのが特徴。
*** 伊万里焼の一様式と位置付け、「鍋島様式」と呼称する場合もある