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July 2023

里山の夜を淡く照らす蛍たち

  • 竹林に生息するヒメボタルの発光を捉えた幽玄な作品
    Photo: KEI NOMIYAMA
  • 野見山桂さん近影
  • 光りながら交接するゲンジボタル Photo: KEI NOMIYAMA
  • 高知県の中筋川(なかすじがわ)にて撮影。水面に写る蛍の光が美しい。 Photo: KEI NOMIYAMA
  • 蛍の名所として知られる四万十川流域に架けかけられた沈下橋(ちんかきょう)にて撮影した作品 Photo: KEI NOMIYAMA
  • 後翅は退化していて飛べないヒメボタルのメス Photo: KEI NOMIYAMA
竹林に生息するヒメボタルの発光を捉えた幽玄な作品 Photo: KEI NOMIYAMA

夏の里山*を無数の蛍が浮遊する幻想的な光景を撮影している野見山桂(のみやまけい)さんに、蛍の魅力を教えてもらった。

四国**を中心に蛍を撮影している野見山桂(のみやまけい)さん。愛媛大学 沿岸環境科学研究センターの准教授として環境汚染について研究するかたわら、世界最大規模の「ソニーワールドフォトグラフィーアワード」で日本人初となるPhotographer of the yearを受賞するなど、数々の受賞歴を持つ写真家としての顔も持つ才人だ。

野見山桂さん近影

野見山さんが蛍を撮影し始めたのは2016年頃。趣味のスキューバダイビングを楽しんだ後、ダイビングスポットの近くにあった蛍の名所で撮影を始めたのがきっかけだった。

「蛍の撮影は目では見えにくいものを写し込む手法をとるので、完成した作品には身近な里山の自然をより強く訴えてくる力があると感じたのです。そこから四国を中心にいろんな場所を訪問し始めました」

光りながら交接するゲンジボタル Photo: KEI NOMIYAMA

四国では5月下旬になると四万十川(しまんとがわ)などの清流に生息するゲンジボタル***が光を放つ様子が各地で見られる。

高知県の中筋川(なかすじがわ)にて撮影。水面に写る蛍の光が美しい。 Photo: KEI NOMIYAMA

「夜景の中で蛍の光をとらえるため、15~20秒ずつの撮影を連続して行い、1回の撮影で合計20分くらい露出時間分の写真を比較明合成法****で合わせます。蛍は隣り合う仲間同士光の点滅に同調する性質を持っており、光が波のようにゆっくり移動していく。その様子がまるで一斉に火を灯したかのように写真には映るので、目で見る印象とはまた違う風景が描かれます」

野見山さんが撮影した写真には、必ず蛍が生息している里山の様子も写っている。

蛍の名所として知られる四万十川流域に架けかけられた沈下橋(ちんかきょう)にて撮影した作品 Photo: KEI NOMIYAMA

「例えば蛍が生息するために必要な森や川、地表の様子を一緒に撮影するとか、どういう環境条件下でホタルが飛んでいるのかを作品の中に落とし込むことが非常に重要だと感じています」

特に森林に生息するヒメボタル*****は、育つ環境が非常に重要な意味を持つという。

「ヒメボタルのメスは羽が退化していて飛べないため、生まれ育った森から移動することがありません。普通、個体種は環境の変化に応じて遺伝子を外に拡散させ生き延びる戦略をとるのですが、ヒメボタルはそれができずに絶滅することになります。生息地である森を守ることが特に重要なホタルです」

後翅は退化していて飛べないヒメボタルのメス Photo: KEI NOMIYAMA

作品を通して四国の豊かな自然や、人間と蛍が営んできた里山の歴史まで伝わってくれたらと語る野見山さん。実際に蛍狩りを楽しむ際に是非やってみてほしいことがあるという。

「蛍を鑑賞する際に、森の匂いを一緒に感じてほしいです。木の匂いや草の匂い、そういう自然の中で蛍は生きてるんだというのを感じていただくと、森の大切さを実感していただける気がします。そして、ホタルが光る時間帯には、懐中電灯などの強い明かりの使用を極力控えていただくことをお願いします。****** 実は、そういったことが、ホタルを守ることにつながっていきます」

* 里地里山とも言う。原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域。農林業などに伴う人々の働きかけを通じて、環境が形成・維持されてきた。
(参考:https://www.env.go.jp/nature/satoyama/top.html)
** 本州、北海道、九州とともに日本列島を構成する主要4島の一つ。徳島県、香川県、愛媛県及び高知県の四つの県からなっている。
*** 本州、四国、九州に分布する昆虫。成虫の体長は12~15mmで、胸部が赤く、尻部が夜間に発光するのが特徴。水生で5〜6月に、里山的環境の小川の周りで夜間に光るのが特徴。
**** 複数枚の画像を重ねて1枚の画像に合成する際に、ピクセルごとの明るさを比較して、明るいほうのピクセルを選んで合成する画像処理手法。星の光跡撮影やホタルの撮影によく用いられる。
***** 陸生で、ゲンジボタルやヘイケボタルよりも一回り小さい昆虫。黄金色で点滅するように発光する。メスの後翅は退化していて飛べない。
****** 強い光は、ホタルの繁殖行動を阻害する。