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July 2023

涼やかな夏の京菓子

  • 雨に見立てた寒天のしずくをまとった涼しげな色のきんとん「紫陽花」
    Photo: 京菓子司末富
  • 七夕飾りの短冊や星を散りばめた7月の生菓子「七夕」(七夕飾りは、「おりもの感謝祭一宮七夕まつり」参照)
    Photo: 京菓子司末富
  • お話をしてくれた山口祥二さん Photo: 京菓子司末富
  • 水草をイメージした緑の餡に、鹿の子をのせて蛍と見立てた「沢辺の蛍」 Photo: 京菓子司末富
  • 葛を用いることで涼やかさを演出した葛焼 Photo: 京菓子司末富
  • 京菓子が持つ「京都の伝統と季節感」を大切にしている末富の本店店舗の外観 Photo: 京菓子司末富
雨に見立てた寒天のしずくをまとった涼しげな色のきんとん「紫陽花」 Photo: 京菓子司末富

夏の蒸し暑さが厳しい京都では、涼感を呼ぶ和菓子が風物詩になっている。

京菓子は、京都で成立した伝統的な和菓子。それぞれに「銘」と呼ばれる名称が付いていることが特徴で、この銘がとても大切だと京菓子司末富の山口祥二(やまぐちしょうじ)さんは言う。銘は、季語*や歌枕(うたまくら**)などから付けられ、古くからの日本の伝統や文化とお菓子を結びつけることになるという。また、山口さんは語る。

七夕飾りの短冊や星を散りばめた7月の生菓子「七夕」(七夕飾りは、「おりもの感謝祭一宮七夕まつり」参照)Photo: 京菓子司末富

「京菓子は単に食べて美味しいといった味もさることながら、銘、そして、その色や形で、必ず季節感を表現します。茶道のお茶席であれば、もてなす側(亭主)の心をお菓子でも伝えますが、今の季節、京都は山で囲まれた盆地であるため、夏、暑気がこもり蒸し暑くなります。少しでも暑さをやわらげるように、涼しさを演出するお菓子をお出しになられます。例えば、上生菓子***の「夏木立」(写真)ですが、夏の季語になります。召し上がるお客様に、まずは銘で夏でも木陰が涼しい木立を想像していただきます。そして、お菓子自体の色合い、形で、自由にイメージをふくらませていただきます。お菓子は、林の生命力あふれる葉を緑の餡で表現して、更にゼリー状の葛****でくるみ、木漏れ日や吹く風を表しています。風が吹く林の中を歩いているような気分になりつつ、少しずつお菓子をご賞味いただきます」

力強い木々の緑の生命力など、夏の日の情景を写した葛(くず)を使った菓子「夏木立」 Photo: 京菓子司末富

山口さんは続ける。「このように、京菓子の楽しみ方としては、銘や色、形に合わせた器に盛り付け、まずは目で楽しんでいただくことです。夏であれば、ガラスの器などに盛り付けても涼し気でよいと思います。その景色を十分に楽しんでから、口に運び、香りややさしい甘味を感じていただけたらと思います。一緒にお抹茶をいただくと、さっぱりとした口触りとなり、夏の暑さを一時、忘れさせてくれるでしょう」

お話をしてくれた山口祥二さん Photo: 京菓子司末富

山口さんによると、京菓子の魅力は、京都の四季そのものを表現していることにあるのだそう。

「四季により意匠や銘が変わるのは、京菓子ならではの特徴です。意匠については、季節折々の花鳥風月や、王朝文化が華(はな)開いた平安時代(794年~12世紀末)の宮廷女性の装束(しょうぞく)に見られる襲の色目(かさねのいろめ*****)を参考に表現してます。さらに、その意匠にふさわしい銘を付けることで、雅(みやび)な宮廷貴族が大切にした季節の移ろいや文学的要素の遊び心が加わり、奥行きのある世界観を生み出します」

末富の夏の京菓子は、まさにその王朝文化以来の長い京都の伝統を体現しているものばかりだ。

水草をイメージした緑の餡に、鹿の子をのせて蛍と見立てた「沢辺の蛍」 Photo: 京菓子司末富

「夏には葛を用いたお菓子を作るのが末富の伝統です。葛の持つ透明感、弾力性、口に入れた時の意外に柔らかく、爽やかな感触などが暑い時期に美味しくいただけるお菓子となります」

葛を用いることで涼やかさを演出した葛焼 Photo: 京菓子司末富

京都ならではの創意工夫に満ちた夏の京菓子。ぜひ海外の方にも京菓子で涼を取る体験を楽しんでみてほしいそう。

「日本人がお菓子を食べて日本茶を飲むように、京都に来られた際は、京菓子をコーヒー・紅茶などとまずは自由に楽しんでみてはいかがでしょうか」

京菓子が持つ「京都の伝統と季節感」を大切にしている末富の本店店舗の外観 Photo: 京菓子司末富

* 連歌、俳諧、俳句において用いられる特定の季節を表す言葉
** 日本古来の定型詩である和歌の中に古来多く詠(よ)みこまれた名所のこと。広くは、和歌に使われた言葉や題材指す場合もある。
*** 茶道では「主菓子」(おもがし)とも呼ぶ。和菓子のうち、水分を多く含むため長もちしない菓子を生菓子と呼び、特に菓子職人が技巧を尽くして季節感を表現したものを上生菓子と呼ぶ。
**** マメ科クズ属のつる性の多年草である。日本では、根を用いて食材の葛粉や漢方薬が作られている。
***** 「HIGHLIGHTING Japan」2020年10月号「自然の移ろいを表す「かさねの色目」」参照