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June 2023

夢の発電・海洋温度差発電の実用化に向けて

  • 沖縄県海洋温度差発電実証試験設備(沖縄県商工労働部産業政策課提供)
  • 海洋温度差発電の原理図
  • 表層海水と深層海水(水深1000m)の温度差マップ
沖縄県海洋温度差発電実証試験設備(沖縄県商工労働部産業政策課提供)

天候・気候に左右されることなく、環境に負荷をかけずに安定的に電力を供給することができる海洋温度差発電(OTEC)*。現在、世界が注目する、その"夢の発電"の実用化に向けて、日本の企業と大学、自治体が共同で行う実証実験が着々と進んでいる。

海洋温度差発電は、海の表層部の25~30℃の温かい海水を温熱源とし、深さ800~1000メートルの深層部にある5~7℃の海水を冷熱源として使用する発電システムである。火力発電や原子力発電と同様に、蒸気を発生させてタービンを動かして、発電する仕組みだ。

海洋温度差発電は、蒸発器、凝縮器、タービン、発電器、ポンプの五つがパイプによって連結されている設備によって稼働する。この設備に、アンモニアや代替フロンなどの沸点が低く気化しやすい物質を循環させて電気をつくる。

発電のフローは次のとおりだ。まず海の表層にある温かい海水をくみ上げ、アンモニアなど低沸点で蒸発する液体が入った蒸発器に送る。蒸発器の液体は温かい海水によって温められることで蒸発し、その蒸気によってタービンが回り、発電する。タービンを回した後の蒸気は凝縮器に送られ、海の深層にある冷たい海水によって冷やされて液体に戻る。このサイクルを繰り返す。

海洋温度差発電の原理図

海洋温度差発電が火力や原子力発電と大きく異なる点は、再生可能な温度差のある海水をエネルギー源として利用している点だ。ただし、現在の技術では、表層海水と深層海水との温度差が20℃以上ある亜熱帯、熱帯地帯で発電が可能とされている。日本では沖縄周辺のほか、小笠原諸島などで発電が可能だ。世界では、建設可能な国はおよそ100か国、発電ポテンシャルは1兆kWに及ぶという。

また特筆すべき特徴は、その供給安定性だ。天候に左右され、連続運転が困難な風力や太陽光に比べ、常に一定の電力を供給することができる。

表層海水と深層海水(水深1000m)の温度差マップ

さらに海洋温度差発電は、他の発電方式に比べると極めてCO2排出量が少ない上、用いた深層海水を表層面に放水することで海藻類の成長を助け、CO2の吸収を促進する効果も併せ持つ。

発電に利用した深層海水の副次的な再利用も大きなメリットだ。深層海水は、養殖漁業、農業、地域冷房、ミネラル塩の製造、ミネラルウォーターの生産、深層海水に含まれるレアメタルの採取など、はかり知れないポテンシャルを持っている。それらの実現も期待できよう。

海洋温度差発電はその実用化を目指して、株式会社ゼネシスをはじめ、複数の民間企業が佐賀大学と共同で取り組んでいる。同社が地球環境に貢献するビジネスを形にしたいという思いで、佐賀大・海洋エネルギー研究センターの門を叩いたのは1997年。温度差発電に不可欠なシステムのデザインとシステムを構成する最も重要なユニットである熱交換器の開発に注力してきた。

2013年には沖縄県による100kW級**の実証実験が沖縄県久米島町において開始された。地元自治体との連携のもと、深層海水の副次的利用による養殖漁業なども行われている。今後は発電能力を増強し、2026年には1MW***、30年以降には100MWを目標としている。

海洋温度差発電には海外からも注目が集まっており、2018年にはマレーシアで実用化支援プロジェクトが立ち上がったほか、モーリシャスやインドネシア、ハワイなども発電設備を設置する場所の候補地として名前が挙がっている。

CO2排出量が少なく、環境に負荷をかけず、供給安定性を持つ夢の発電・海洋温度差発電は、現在、実用化に向けて着実に進んでいると言えよう。

海洋温度差発電で使う深層海水は様々な目的で利用可能

* OTEC: Ocean Thermal Energy Conversion
** 日本の約200世帯分の平均消費電力に相当する。
*** 沖縄県久米島町全体の電力需要の約15%に相当する。