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June 2023

金沢の気候が生んだ用の美極まる金沢和傘

  • 金沢和傘の、目を引く、趣向を凝らした優美で華やかな色使いや模様
    Photo: 松田和傘店
  • 創業して127年の歴史を持つ松田和傘店
    Photo: 松田和傘店
  • 金沢市内に残る古い町並みの雪景色
  • 傘の端を補強のために糸でかがる「小糸がけ」
    Photo: 松田和傘店
  • 色とりどりの糸を掛けていく「千鳥掛け」(写真中央)。見上げると美しい世界が広がる。
    Photo: 松田和傘店
  • 昨年、イタリアの工芸展「HOMO FABER(ホモ・ファベール)」に日本の伝統工芸を伝える作品展示に松田和傘店も制作協力。
    Photo: 松田和傘店
金沢和傘の、目を引く、趣向を凝らした優美で華やかな色使いや模様。Photo: 松田和傘店

年間を通じて雨や雪が多い石川県金沢市。この地で生まれた和傘は丈夫な作りと美しさが大きな特徴だ。現在、唯一となった金沢和傘作りの専門店に話を聞いた。

金沢和傘は、雨や雪の重みに耐えうる丈夫な作りと美しさを兼ね備えているのが特徴だ。最盛期には100軒以上もの和傘屋があったというが、現在、金沢和傘を作るのは、1896年創業の松田和傘店、一軒のみ。3代目の松田重樹さんが3人の弟子たちと、一部の特殊な部品以外の工程を一貫して製作している。

創業して127年の歴史を持つ松田和傘店。Photo: 松田和傘店

和傘作りは、日本の様々な地域で行われているが、その中でも金沢和傘の特徴は、"堅牢・優美・豪壮"と言われている。金沢周辺地域の気候は、雨が多いだけではなく、湿って重い雪が降るため、その重さに耐えられるように丈夫に作ること、それでいて美しく作る工夫が随所にある。

金沢市内に残る古い町並みの雪景色

"堅牢"さは、和傘の作りの要である傘骨とそれに貼る和紙(傘紙と言う)に見られるという。傘骨は竹を材料として、しっかりと作り、細身にはしない。また、その傘骨に貼る和紙は、厚手のものを用いている。そして、骨と骨の間に、和紙をゆとりを持たせて貼り、特に、傘の天井部分は和紙を四重貼りにする。

傘の端を補強のために糸でかがる「小糸がけ」 Photo: 松田和傘店

"優美"さは、傘を開くと内側の頭の上に、様々な色の糸の織り成す幾何学模様「千鳥掛け(ちどりがけ)」に現れる(写真参照)。千鳥掛けは、傘を支える内側の竹骨の強度を与える実用目的もあるが、美しさも追及しているという。傘の補強であるものの、装飾としてのデザイン性も持ち、雨や雪の日であっても内側を見上げれば、そのカラフルで美しい色合いで、作り手の気持ち「晴れやかに」という思いが込められているという。また、傘の縁には、「小糸がけ」という工程で傘に強度を与えながら、糸の模様が"優美"に見える縫製を施している。

色とりどりの糸を掛けていく「千鳥掛け」(写真中央)。見上げると美しい世界が広がる。Photo: 松田和傘店

このように、金沢和傘は、この地域の気候に合わせた強度を増す実用性から生み出された「用の美」もあるが、開いたときの傘紙全体のデザインが"優美"であり、"豪壮"で華麗なことも大きな魅力だ。「伝統的な様式美にとらわれず、元々は着物の技法である加賀友禅*の職人に絵付けを依頼するなど、異分野とのコラボレーションも積極的に行っている」と松田和傘店の職人・松本佳子さん。現在、和傘の購入者の9割が、県外及び外国の方だそう。伝統工芸品として、芸術的な魅力も有する。

和傘は傘紙に植物油(えごま油)を塗って仕上げており、独特の透明感がある。金沢和傘は、傘を開いて内側から見ると、千鳥掛けの先に、傘紙の模様が透けて、まるでステンドグラスのようだ。また、雨の降る中で差してみれば、頑丈な和紙で作られた傘ならではの柔らかで温かな雨音を楽しむことができるだろう。丈夫であるとともに、美しき金沢和傘。ぜひ手に取って体感して欲しい。

昨年、イタリアの工芸展「HOMO FABER(ホモ・ファベール)」に日本の伝統工芸を伝える作品展示に松田和傘店も制作協力。Photo: 松田和傘店

* 加賀友禅とは、石川県金沢市を中心に生産されている、染めの技法。17世紀中頃から技法が確立された。手描きによる写実的な草花模様が特徴。(以下参照 Highlighting Japan 2022年12月号「加賀友禅:伝統と芸術的な技法を表現した着物」