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June 2023

和傘の最大の生産地・岐阜市

  • 和傘の美しさを表す「とじて竹ひらいて花」という言葉も生まれた。
    Photo: 和傘C A S A
  • 岐阜市内を横切る長良川の水運が岐阜和傘の発展の要。
  • 岐阜市川原町は古い街並みが残っている観光スポットだ。
    Photo: 和傘C A S A
  • 海外の映画女優にもプレゼントされた、若手職人河合幹子さん製作「桜和傘」。
    Photo: 和傘C A S A
  • 岐阜和傘専門店、和傘C A S Aでは、和傘と洋服とのコーディネイトも積極的に提案している。
    Photo: 和傘C A S A
  • 和装でのコーディネイトの提案も。レトロ柄の着物とグリーンの和傘の組み合わせ。
    Photo: 和傘C A S A
和傘の美しさを表す「とじて竹ひらいて花」という言葉も生まれた。Photo: 和傘C A S A

現在でも和傘の一大産地である岐阜県岐阜市。17世紀より継承されている伝統的な製作工程や傘の産地として発展してきた歴史など、岐阜和傘協会に話を聞いた。

現在、「岐阜和傘」とも呼ばれる、岐阜市での傘作りは、17世紀前半に遡るとされるが、本格的に発展したのは18世紀半ば過ぎだ。1756年に現在の岐阜市を本拠地としていた加納藩の藩主となった永井直陳(ながい なおのぶ)が、下級武士の生計を助けるため和傘づくりを奨励したという。その当時から、加納藩を含む地方(現在の岐阜県)は良質な竹、和紙*、植物性油、柿渋**、糊など傘作りに必要な材料にも恵まれていた。また、長良川(ながらがわ)という水運が発達していた河川があり、船による物流の便もよかったことから、傘づくりは、武士の内職にとどまらず、地場産業として広がっていったという。やがて、当時の大都市だった江戸(現在の東京)や大坂(大阪)などでの傘の需要が高まるにつれ、安定した産業として盛んとなり、現在の岐阜市加納地区と近接エリアを中心に和傘の屈指の名産地となって20世紀にまで至った。

岐阜市内を横切る長良川の水運が岐阜和傘の発展の要。

和傘生産の最盛期は第二次世界大戦後の1950年前後で、年産1000万本を超えていたという。19世紀に輸入に頼っていた洋傘は、徐々に国産化が進み、戦後に折り畳み傘が開発されると爆発的に人気を博すことになる。その後、ポリエステル製の安価なものが登場し、洋傘の普及が進んだ。それによって、岐阜和傘の生産数は激減するものの、今も芸能や舞踊などで使われる和傘の大半を生産しているとも言われ、日本を代表する和傘の産地であることには変わりはない。

岐阜市川原町は古い街並みが残っている観光スポットだ。Photo: 和傘C A S A

岐阜和傘は、傘問屋(かさどんや)が職人を仕切り、傘作りの100以上の工程を、それぞれ専門の職人が手がける分業制により効率化と精緻な物づくりの両面を実現し発展していった。特に、畳むと細く収まる"細物"といわれる傘を得意とする。細物とは閉じた形が細く、スマートなシルエットの傘で、芸能用の蛇の目傘***、日本舞踊用の傘、あるいは日傘として使われていることも多い。

岐阜和傘専門店、和傘C A S Aでは、和傘と洋服とのコーディネイトも積極的に提案している。Photo: 和傘C A S A

そして、岐阜和傘は、「細身」「繊細」「優美」であることが伝統的に重んじられてきたため、技巧を凝らした構造上のデザイン性の高さも特徴の一つだ。実際に傘を開くと、内側の傘骨にかがられた糸で作り出される幾何学模様、和紙から透き通る光の美しさ、そんな繊細な美しさに心奪われる。また、雨粒が奏でるパラパラという雨音、防水のために塗られている植物性油のやさしい香り、手に持ったときの竹の手触りなど、自然素材の工芸品ならではの感覚を楽しむことができる。

和装でのコーディネイトの提案も。レトロ柄の着物とグリーンの和傘の組み合わせ。Photo: 和傘C A S A

また、岐阜市内、長良川沿いの川原地区には、伝統的な木造建築が軒を連ねる古い街並みが残っており、観光地として注目されている。近年、そこに岐阜和傘専門店もオープン。岐阜和傘の伝統工芸としての魅力を発信している。また、S N Sで若手職人が製作した"桜和傘"が多くの人の目に留まり、海外の映画プロモーションにも使用された。伝統的な街並みを散策しながら、暑い季節用の日傘として、自分のお気に入りの岐阜和傘を探してみてもよいかもしれない。

海外の映画女優にもプレゼントされた、若手職人河合幹子さん製作「桜和傘」。Photo: 和傘C A S A

* 和紙とは、日本にもともと自生した楮(こうぞ)三椏(みつまた)など植物の原材料を使って手すきで作られた、日本独自の紙。
** 未熟の柿からしぼりとって発酵させた汁。紙、木、麻などの染料や、強化、防腐剤として使われる。
*** 「蛇の目傘」と言われる小ぶりの和傘。丸い輪の模様が特徴。蛇の目柄は、神の使いの蛇の目(へびのめ)をかたどっており、魔除けの意味も込められてきた。