May 2023
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日本の結婚披露宴を彩る繊細な鯛料理
日本初の総合結婚式場として名高い老舗ホテルに、結婚披露宴に供される鯛料理について伺った。
日本において、結婚式は19世紀までは、自宅で行うのが一般的だった。それが、現在のように神前で結婚の誓いをし、披露宴を行うという婚礼スタイルになったのは、1900年、当時皇太子であった大正天皇と貞明皇后の「結婚の儀」が始まりであったと言われている*。
披露宴とは、結婚したことを披露するために親戚や知人、友人を招いて行う祝いの宴会のことである。その宴会で振る舞われる会席料理は、14世紀から発展、整えられてきた日本の伝統的な供応料理でもっとも格式が高い本膳料理**を簡略化したものだ。本膳料理は、古来の宮廷料理を発展させた日本料理のスタイルでもあり、鯛をめでたい魚としてメニューに取り入れるのも、古くから続く伝統だと考えられている。また、本膳料理の正式な配膳では、中心が「本膳」と呼ぶお膳で、ここには、ご飯とみそ汁などが置かれる。この本膳料理でメインとも言えるご飯に、鯛を使った「鯛めし」を供しているのがホテル雅叙園東京だ。
ホテル雅叙園東京は、今から90年余り前に料亭として誕生し、日本の総合結婚式場のさきがけと言われる目黒雅叙園が前身とされている。料亭の伝統は、今でも同ホテルの披露宴メニューにも受け継がれており、現在では8品から10品のコース料理を提供しているという。
ホテル雅叙園東京の料理について同ホテルの広報部に聞いてみた。
「お客様のことを想い、日本全国から最良の食材を厳選して調理しています。料理は、出汁(だし)からタレに至るまで全て手作りで準備しています。特に和食の味の決め手である塩加減は、どんなに婚礼の実施が多い日でも必ず統括料理長がチェックすることで高いクオリティを保つようにして提供しています」
また、食材同様、器や盛り付けについても意を尽くしているという。
「器や盛り付けは、婚礼ならではの彩りや華やかさを意識しています。特にご新郎、ご新婦様やゲストの記憶に残るものをと意識しています。」
そのような披露宴のメニューの中でもひときわ好評で、繊細な味わいが楽しめるのが鯛めしだという。
「鯛めしで使用する鯛は、全て天然の物にこだわっています。使用する前の日から強めの塩を入れ、しっかりと臭みと水分を抜いて下ごしらえ。ほんのり塩味がついた鯛を、当日は155度のオーブンで15分程度焼き、旨味を閉じ込めてから、米と一緒に炊き上げます」
料亭から引き継がれている老舗ホテルの料理の精神は、日本の長い食文化の伝統を今に受け継いでいると言えよう。鯛めしにもその精神が見て取れる。
* 1900年、皇室で初めて宮中にある賢所(かしこどころ。皇室の祖神を祀る)の前で、当時皇太子であった大正天皇(第123代)と貞明皇后(後の御称号)との結婚の儀が行われ、別に宴席が設けられた。
** 室町時代(14世紀前半半ば~16世紀後半半ば)に確立したもっとも正式な日本料理のスタイル。料理を膳(料理を盛り付けたいくつかの食器を載せる食事用の台。多くは漆塗り)で一人一人供し、本膳、二の膳、三の膳などに分けて配置して(配膳)供する。