Skip to Content

May 2023

日本の伝統行事「お食い初め」に欠かせない鯛の尾頭付き

  • 主食である赤飯や副菜のほか、必ず用意される鯛の尾頭付き(左側の焼き魚)
  • お食い初めで、まだ歯の生えていない赤ちゃんに、親が箸でごはんを食べさせる真似事をする様子
  • お食い初めのお膳を準備する様子(写真下部中央の魚の形をしたものは、「歯固めの石」に相当するもの)
  • お食い初めで用意される真鯛の尾頭付き
  • お食い初めを通して、赤ちゃんの健康と幸せを願う家族
主食である赤飯や副菜のほか、必ず用意される鯛の尾頭付き(左側の焼き魚)

子どもの生後100日に行われる日本の伝統行事「お食い初め(おくいぞめ)」では、必ず鯛の尾頭(おかしら)付き*が用意される。その由来について、民俗情報工学研究家の井戸理恵子(いど りえこ)さんに話を聞いた。

井戸さんは、お食い初めについて「赤ちゃんが食べるまねをする行事です。赤ちゃんが健康に成長し、豊かな食生活を送ってほしいという願いを込めて行います。主役の赤ちゃん、親、そして祖父母が集まって行うのが基本です。その起源は、平安時代(8世紀末から12世紀末)までさかのぼります。日本には古来より、〝食べることは命をつなぐこと〟という、食べるものをとても大切にする考え方があります。お食い初めを通して、子どもにお箸を使ってごはんを食べる大切さを伝えるため、千年以上にわたって引き継がれてきました」と言う。

お食い初めで、まだ歯の生えていない赤ちゃんに、親が箸でごはんを食べさせる真似事をする様子

井戸さんによれば、親が箸で赤ちゃんの口に食べ物を付けることから「箸始め」とも言われてきたと言う。

お食い初めのお膳を準備する様子(写真下部中央の魚の形をしたものは、「歯固めの石」に相当するもの)

お食い初めに使う食器や食材にも、赤ちゃんが健やかに成長するようにという願いが込められている。食べ物は、縁起がよく、魔除(よ)けの色である朱色のお祝い用の漆器に盛り付ける。赤飯か山盛りの白米、そして〝祝い鯛〟と呼ばれる尾頭付きの鯛の姿焼きは欠かせない。

お食い初めで用意される真鯛の尾頭付き

「尾頭付きと言う頭から尾までを使う魚の姿焼きは古来から〝一つの事を最初から最後までまっとうする〟という考え方に沿う縁起のよい食べ物とされています。また、40年も生きる個体もある、魚類の中では長寿である鯛のように、長生きをしてほしいという意味があります。さらには、雑食性の鯛のように、なんでも食べられる子になってほしいという意味もあるそうです」と井戸さんは解説する。

伝統的なお食い初めは、料理とともに小石あるいはその代わりのものも用意する。料理を一通り、赤ちゃんの口に付けて食べさせるまねをしたあと、最後にこの小石に箸先を付けて、その箸先を赤ちゃんの歯ぐきにも数回あてる。「丈夫な歯が生えてくるように」との祈りを込める。

お食い初めは、親や祖父母のほか、親族や友人が集まって祝うことも多い。子どものお披露目の場や家族の絆を深める機会でもある現代のお食い初め。縁起の良い鯛がここでも重宝されている。

お食い初めを通して、赤ちゃんの健康と幸せを願う家族

* 尾と頭がついたまま、個体そのままの姿の魚のこと。特に、日本では、鯛の尾頭つきの焼き物は祝いの席で好まれる。