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February 2023

層雲峡温泉氷瀑まつり

  • 北海道上川町の層雲峡温泉氷瀑まつりでライトアップされる氷のオブジェ
  • ライトアップされた氷のオブジェ
  • 会場上空で打ち上げられる花火
  • ライトアップされた氷のトンネル
北海道上川町の層雲峡温泉氷瀑まつりでライトアップされる氷のオブジェ

雪に覆われる北海道の層雲峡で冬に開催される祭りでは、氷のオブジェが夜にライトアップされ幻想的な光景を生み出す。

ライトアップされた氷のオブジェ

北海道の冬を楽しむ大きなイベントといえば、「さっぽろ雪まつり」*「旭川雪まつり」そして「層雲峡温泉氷瀑(そううんきょうおんせんひょうばく)まつり」が有名だ。札幌と旭川が雪像を作るイベントであるのに対して、層雲峡のイベントは自然を生かして様々な氷のオブジェを作り上げるのが特徴だ。大小約30基並ぶこれらのオブジェは、幾重ものつららから形を作り、そして、大きくさせていったものである。オブジェは大きいものでは幅50メートル、高さ13メートルにもなる。その迫力のある光景を見ようと、例年約12万人もの観光客が訪れる。

北海道のほぼ中央部に位置する上川町(かみかわちょう)にある層雲峡は、大雪山国立公園**に位置している。北海道でもっとも長い石狩川の上流で、川の流れが長い時間をかけて削りだした断崖絶壁が約24キロメートルにわたって続く。また、この地で沸く温泉も有名で「層雲峡温泉」として温泉街を成している。

層雲峡観光協会の事務局長、中島慎一(なかじま しんいち)さんは「このあたりの2月の最低気温はマイナス10度を下回り、風も強く、体感温度はマイナス20度にもなります。そのため観光客は夏に集中していました。ですが、冬の層雲峡にも来てほしい。そう思った層雲峡商店街の青年が中心となって、1976年に芸術家の竹中さんとともに行ったイベントが『氷瀑まつり』の始まりでした」と話す。

会場上空で打ち上げられる花火

竹中敏洋(たけなか としひろ。1931〜2002)さんは、北海道恵庭市(えにわし)を拠点に活動していた造形作家で、当時、立ち木に水を吹きかけて凍らせる「造形樹氷」に取り組んでいた。竹中さんが層雲峡で行った造形樹氷のアート制作展示が好評を博し、以降『氷瀑まつり』は毎年開催されてきた。回を重ねるごとに来客は増え、それにつれて規模も拡大して行き、現在は、石狩川の河川敷に特設会場を設けて、1月下旬から3月上旬にかけて開催されている。今年で48回目を数える。

今では、氷のオブジェは地域住民からなる実行委員会によって企画され、造りあげられる。準備を始めるのは前年の秋から。まつりのテーマが決まると、11月上旬からオブジェの原型となる丸太を組む作業が始まる。12月からはできあがった骨組みに石狩川から汲み上げた水を吹きかけ、少しずつ垂れ下がるつららを大きくしながら、約1か月半をかけてオブジェを完成させる。

「通路や階段部分などにはチェーンソーで切り込みを入れますが、でき上がった氷のオブジェに人の手は、基本、加えません。自然の寒さの中で、自然にできた荒々しい氷の様子を楽しんでほしい」と中島さんは言う。

「氷瀑」とは、本来、滝が氷結した状態を言い表す。層雲峡の氷像のイベントに「氷瀑まつり」と命名したのは、その自然を表す様子に由来する。

ライトアップされた氷のトンネル

石狩川の澄んだ水でできた青白いオブジェは、夜にはライトアップされて七色の幻想的な姿を浮かび上がらせる。期間中、凍てつく夜空に打ち上げられる花火も名物の一つ。泊りがけで「氷瀑まつり」を楽しむ観光客も多い。

「コロナ禍であっても感染対策をしながら中止することなく開催を続けたほど、『氷瀑まつり』は地域住民にとっても、とても大切なイベントになっています」と中島さんは話す。

新型コロナウイルスの流行前は、海外からの観光客も増え、雪まつりの雪像とはまた違った迫力のある層雲峡の氷のオブジェを楽しんでいた。会期中の週末には、上川アイヌ***の太鼓演奏など、この土地ならではの催しもある。まつりを楽しんだ後に訪れ、体を温める温泉があるのも、層雲峡の魅力だろう。

* Highlighting Japan 2022年1月号「さっぽろ雪まつり」参照 https://www.gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj/html/202201/202201_02_jp.html
** Highlighting Japan 2022年9月号「北海道・旭岳の紅葉」参照 https://gov-online.go.jp/eng/publicity/book/hlj//html/202209/202209_02_jp.html
*** 日本列島北部周辺、とりわけ北海道の先住民族をアイヌ民族と呼び、大雪山のふもとの上川盆地には「上川アイヌ」と呼ばれる人々が暮らしてきた。