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January 2023

グローバルヘルスにおける日本の国際協力

  • 2022年8月、チュニジアで開催されたTICAD8にオンラインで出席した岸田文雄内閣総理大臣
  • 2016年5月に三重県で開催されたG7伊勢志摩サミットに参加した首脳
  • JICAによる「野口記念医学研究所 先端感染症研究センター建設計画」で建設された新しい研究棟で作業するガーナの研究者たち
2022年8月、チュニジアで開催されたTICAD8にオンラインで出席した岸田文雄内閣総理大臣

日本は長年にわたり、地球規模の保健医療「グローバルヘルス」をG7サミットの重点課題として推進している。

健康は人々の生活、社会の安定や経済の発展にとって、最も重要なものの一つである。しかし、世界には十分な保健医療サービスを受けることができない人々も多い。日本政府は、こうした現状を踏まえ、地球規模の保健医療「グローバルヘルス」を国際協力の重点分野の一つとして推進してきた。グローバルヘルスは、今年(2023年) 5月に開催されるG7広島サミットにおいても主要テーマの一つとなる予定である。

2000年のG8九州・沖縄サミットにおいて、日本は議長国として感染症を主要テーマの一つとして取り上げ、参加国はその取組の強化に合意、それを契機に2002年に「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」が設立された。日本政府が主要ドナーの一つである同基金は、途上国におけるエイズ、結核、マラリア対策と保健システム強化に資金協力を行っており、2021年末までに、支援対象国でのこれら感染症による死亡率を半分以下まで減少させ、5,000万人以上の命を救うことに貢献したと推計されている。

2016年5月に三重県で開催されたG7伊勢志摩サミットに参加した首脳

日本政府は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットの一つともなっているユニバーサル・ヘルス・カバレッジ*(UHC)の達成にも力を入れている。日本は国民皆保険制度や保健医療システム整備によってUHCを達成しており、これが世界有数の長寿国となった理由の一つと考えられている。より多くの国のUHC達成に向け、日本政府は、2016年5月のG7伊勢志摩サミットにおいてUHCの推進を主要テーマの一つとして取り上げ、成果文書の一つ「国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョン」に、UHCに向けた保健システム強化が明記された。また、同年8月の第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)**では、日本が世界銀行やWHO等と共に、アフリカ諸国が具体的な国家戦略を策定する際に参考となるフレームワーク「UHC in Africa」を公表した。2019年6月のG20大阪サミットでは、日本が途上国におけるUHCファイナンスの強化を主要議題の一つに掲げ、G20として初めて財務大臣・保健大臣合同セッションを開催した。こういったUHCの主流化の努力が、同年9月の国連総会UHCハイレベル会合の開催にも繋がった。

このように、日本政府は、グローバルヘルスのために様々な会議を通じて国際的なモメンタム(機運)の醸成を図るとともに、国際機関への拠出や国際協力機構(JICA)等による途上国での保健分野での技術協力を通じて人材育成や資金協力などの支援を行ってきた。例えば、JICAは2020年度以降のコロナ禍において、22カ国で計約2億人へ裨益(ひえき)する病院整備・拡充や2500人以上への集中治療の遠隔研修などを行っている。また、日本政府はCOVID-19対策として、途上国に対する約50億ドル規模の支援を実施してきた。特に、ワクチンに関しては、COVAXへの最大15億ドルの財政支援やワクチンの現物供与に加えて、コールド・チェーン体制の整備や医療関係者の接種能力強化等の支援も78か国・地域、総額約185億円規模で実施してきた。さらに、途上国の経済社会の活性化と人的往来の再開のための支援を108億円規模で展開している。また、2022年8月のTICAD8では、三大感染症対策及び保健システム強化のため、グローバルファンドへの今後3年間で最大10.8億ドルの拠出を表明した。

JICAによる「野口記念医学研究所 先端感染症研究センター建設計画」で建設された新しい研究棟で作業するガーナの研究者たち

COVID-19も踏まえ、日本政府は2022年5月に「グローバルヘルス戦略」***(以下、「戦略」)を決定した。「戦略」は、健康安全保障に資するグローバルヘルス・アーキテクチャーの構築に貢献し、パンデミックを含む公衆衛生危機に対するPPR(予防・備え・対応)を強化すること、そして、人間の安全保障****を具現化するため、ポスト・コロナの新たな時代に求められる、より強靭、より公平、かつ、より持続可能なUHCの達成を目指すことを政策目標として掲げている。具体的な取組としては、二国間協力の推進、国際機関、官民連携基金、民間企業、市民社会、大学のほか、ASEAN感染症対策センターのような地域レベルでの機構・機関といった多様なステークホルダーとの連携強化などが挙げられている。また、政府は、グローバルヘルス分野への投資に取り組む民間の後押しも視野に入れた「インパクト投資」*****の促進に向けた研究会を立ち上げ、インパクト投資の課題、事例の収集や、投資に見込まれる効果の適切な測定・可視化などの方策の検討を行っている。

健康構想の推進

日本政府は、保健医療分野の国際協力として、アジアとアフリカにおける健康長寿社会の実現と持続可能な成長を目指す「アジア健康構想(AHWIN)」******と「アフリカ健康構想(AfHWIN)」*******を推進している。2022年末までに、これらの構想のもと、日本政府は12か国と二国間協力覚書(MOC)を署名した。二国間協力を具体化し、監督するためのハイレベルな諮問機関「ヘルスケア合同委員会」を設置し、政府間の対話の深化を図るほか、日本企業の製品・サービスを紹介する官民ミッションの派遣や医療機器のデモの実施などを通じ、官民一体となって健康構想を推進している。既に、複数の日本企業が、アジアでの人材育成事業や、アフリカでの乳幼児の栄養改善事業など様々な事業を実施し、各国の保健医療分野に貢献をしてきた。内閣官房は2022年、健康構想に資する取組の事例集********を作成した。「各国の医療関係者や保健省に、日本の取組を知ってほしい。官民一体となって各国の保健医療のニーズを満たしていきたい」と担当者は話す。

実際、ヘルスケアのニーズは多様だ。各国、状況が異なる。人口の増加率、高齢化率、乳幼児死亡率が異なれば、求められる保健政策も異なる。近年は、新型コロナ感染症対策への注目度が高くなりやすいが、他の感染症や生活習慣病が最大、あるいは長期的な脅威となっている国もある。保健課題の解決には、インフラの整備も含めた、分野横断的なアプローチが必要な場合もあるだろう。

今後、日本がAHWIN、AfHWINを推進していくためには、これまで培った技術、高齢化社会の経験を基礎にしつつも、各国のニーズに基づいた、事業展開が求められている。各国の医療機関、ヘルスケア産業との交流や連携を通じ、世界の健康長寿に寄与すること―それは決して簡単なミッションではない。しかし、日本は世界の人々の健康や暮らし、そして命を守る取組に挑戦し続けていく。

  • * 全ての人が効果的で良質な保健医療サービスを負担可能な費用で受けられること。
  • ** アフリカ開発会議(TICAD)は1993年以降、日本政府が主導し、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行及びアフリカ連合委員会(AUC)と共同で開催している。
  • *** https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/senryaku/r040524global_health.pdf
  • **** 人間の安全保障とは、人間一人ひとりに着目し、生存・生活・尊厳に対する広範かつ深刻な脅威から人々を守り、それぞれの持つ豊かな可能性を実現するために、保護と能力強化を通じて持続可能な個人の自立と社会づくりを促す考え方 https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/bunya/security/index.html
  • ***** インパクト投資は、経済的利益とともに、社会的課題の解決を目指す投資
  • ****** 2016年健康・医療戦略推進本部においてアジア健康構想の基本方針を決定。2018年に改正。
  • ******* 2019年健康・医療戦略推進本部にてアフリカ健康構想の基本方針を決定。同年8月のTICAD7において提示。
  • ******** アジア健康構想・アフリカ健康構想 取組の紹介 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/torikumi/index.html

注記: 本記事は内閣官房の了解の上、同官房の公表資料に基づき作成している。