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December 2022

加賀友禅:伝統と芸術的な技法を表現した着物

  • あえて病葉を描いてアクセントにする「虫喰い」の文様(右、中央部の黄色い葉)
  • 花びらを色の濃淡をつけて描く「外ぼかし」による文様表現
  • 友禅訪問着「魚のむれ」(木村雨山作)(石川県立美術館所蔵)
  • 友禅赤地吉祥文振袖(木村雨山作)(石川県立美術館所蔵)
  • 板場友禅による扇子の文様
友禅訪問着「魚のむれ」(木村雨山作)(石川県立美術館所蔵)

「加賀友禅」は、石川県金沢市周辺で発展した、草花など主に自然をモチーフにした写実的な文様を特徴とする、伝統的な着物の染色技法である。

友禅赤地吉祥文振袖(木村雨山作)(石川県立美術館所蔵)

加賀友禅は、加賀国(かがのくに)(現在の石川県)の金沢で行われている着物の多彩な染色技法である。美しい光沢を持つ絹の生地に、草や花、鳥、また自然の景観を、刷毛(はけ)などを使って色付けしていく。

「金沢では、16世紀後半までには、既に梅の木の樹皮や根から作った染液で布を染める『梅染』という染色技法が確立されていました。この技法をベースに、1712年、京都で京友禅の発展に寄与した扇絵師の宮崎友禅斎(みやざき ゆうぜんさい。1654〜1736年)が、金沢に移り住み、新たな特色が加味され加賀の友禅は、大藩・加賀藩の武家文化の中で花開き、定着していきました」と加賀染振興協会の中川聖士(なかがわ せいし)さんは語る。

加賀友禅は、藍色、えんじ色、黄土色、草色、古代紫色の「加賀五彩」を基調とし、草花を写実的に描き上げる。その特徴の一つは、立体感を表現するために、花びらの文様を、ぼかしを多用しながら色付けをしていくことです。また、あえて病葉*(わくらば)を描いてアクセントにする「虫喰い」を使うのも特徴である。

花びらを色の濃淡をつけて描く「外ぼかし」による文様表現
あえて病葉を描いてアクセントにする「虫喰い」の文様(右、中央部の黄色い葉)

「煌(きら)びやかな京友禅と比べ、加賀友禅には落ち着いた優美さがあるといわれています。地域の風土がその文様や色使いに反映されているといえるでしょう」と中川さんは話す。

加賀友禅には、「手描(てがき)友禅」と「板場(いたば)友禅」がある。手描友禅は、着物の絹の生地に草や花など自然の風景を写実的に、手で描いたものである。一方、板場友禅は、長い板の上に生地を貼り、型紙を使って文様を型抜きして染色したものである(参照)。型紙を使うので、扇子や花など、同一の文様を切れ目なく連続的に表現できるのが特徴である。

板場友禅による扇子の文様

加賀友禅において、手描友禅は特に作家の個性が強く表われる。そうした作家の中で、とりわけ、その技法や文様が後進に大きく影響を与えた一人が、木村雨山(きむら うざん。1891〜1977年)だ。日本画家の兄と同じ師から伝統的な彩色や運筆を習っていた木村雨山は、金沢を歩きながら、自然の草花だけでなく鳥や市場の魚など自身の身近にあるものを、持ち歩いていたスケッチブックに描き溜め、友禅の文様に活かした。彼はそうした日常生活の中で目にした自然の美しさをモチーフとし、さらに日本画の技法を応用して作品を作り、友禅を芸術の域にまで高めた。それが評価され、木村は1955年に重要無形文化財「友禅」保持者(人間国宝)に認定されている。

「木村雨山の影響もあり、今の加賀友禅作家は日本画を学ぶ者も多く、着物をキャンバスに見立てて絵画のように文様を描きます」と中川さんは言う。「こうした表現は、着物のデザインや彩色など重要な工程を一人の作家が行う加賀友禅だからこそ可能だと言えます」

宮崎友禅斎の影響で大きく発展した加賀の友禅の着物は、300年余りの伝統を活かしながら、作家が創り出す絹の染色美を表現し続けている。

手描き友禅による草花模様の着物の一部
  • * 虫害や病気のために変色した葉