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November 2022

必要に応じて透明・不透明を自在に操ることができるガラス

  • UMUを使用した鉄道の窓。住宅地付近を通過する時は窓が自動的に不透明になり、沿線住民のプライバシーを保護する役割を果たしている。
  • UMUを使用した会議室の間仕切り
UMUを使用した鉄道の窓。住宅地付近を通過する時は窓が自動的に不透明になり、沿線住民のプライバシーを保護する役割を果たしている。

日本の企業が開発した「瞬間調光ガラス」の改良が進み、その用途は広がっている。

UMUを使用した会議室の間仕切り

調光ガラスは、電気のオン・オフで、瞬時に、ガラスを透明な状態に、あるいは不透明な状態に切り替えることができるガラスである。調光ガラスは、例えば、ホテルや一般家庭のトイレの空きを確認できることの便利さと利用時のプライバシーの保護を両立させることができる。会議室の間仕切りとして使えば、部屋を使用していない時にガラスを透明にすることで、開放感のあるオフィス空間が可能となる。

こうした調光ガラスの研究開発で世界を牽引してきた企業の一つが日本板硝子株式会社である。同社が瞬間調光ガラス「UMU」(ウム)を完成させたのは1987年であった。

UMUは、液晶*分子が入った直径数ミクロンのカプセルが分散している透明なフィルム(ウムフィルム)を、樹脂製の中間膜でサンドイッチして、更にそれに2枚のフロート板ガラス**を貼り合わせた「合わせガラス」の構造をしている(「図1」参照)。液晶分子は、通常、カプセルの内壁に沿って不規則に並んでいるが、電圧をかけると、一定の方向に整列するという特性がある。カプセル内の液晶分子が不規則に並んでいる時は、液晶分子に当たった光が散乱するため、フィルムは不透明(乳白色)であるが、液晶分子が整列していると、光は散乱せずにそのまま通過するので、フィルムは透明となる (「図2」参照)。30年以上にわたってUMUの研究開発に取り組んできた千葉県市原市の日本板硝子ウムプロダクツ株式会社***取締役の矢野祐一さんは次のように説明する。

「実は、ウムフィルムを通り抜ける光の量は、透明でも不透明でも、いずれの状態でもほとんど変わりません。光が平行に通るか、散乱するかの違いだけです。目に見える透明な水の粒子の集まりである雲が白く見えるのは、水の粒で光が散乱するからですが、ウムフィルムでは、それと同じようなことが起きるのです」

瞬時に透明になったり、不透明になったりするUMUは1987年の発売当時、市場の大きな注目を集めた。しかし、開発の成功までの道のりは困難の連続であった。合わせガラスは、2枚のガラスに高い熱や圧力をかけて付着させて製造する。しかし、ウムフィルムに含まれる液晶は熱や圧力に敏感である。そのため、ガラスを付着させるときに、ウムフィルムへの影響をいかに最小限に抑えるかが大きな課題であった。また、大きなサイズで、品質が均一なウムフィルムを作ることも難題であった。

こうした課題を一つ一つ克服し、UMUは完成した。生産開始当初は、耐久性やコストなどの理由からオフィスやホテルなどの建物での利用が中心であったが、その後品質やコストの改善が重ねられ、高級乗用車の前席と後席の仕切り、電車の車両窓など、建物以外の様々な場所での利用が可能となっている。

「近年はガラスを透明と不透明とに切り替えるだけでなく、そこを透過する光を吸収したり、反射したりする技術の研究開発が進んでいます」と矢野さんは話す。光の反射が可能となれば、透明なガラスを瞬時に鏡へと変えることもできるようになる。調光ガラスは今後、ガラスの可能性をさらに広げていくことになるだろう。

図1: UMUの構造
図2: 電圧の有無による、ウムフィルム内の液晶分子の変化
瞬間調光ガラス「UMU」が不透明(電圧をかけない場合) UMUが透明(電圧をかけた場合)

* 液晶とは、液体と固体(結晶)の中間にある状態の物質。透明で、粘性のある液体状のものである。外部電圧によって、分子の並び方が変化する。
** フロート板ガラスは、溶かしたガラスを溶けた錫(すず)に浮かべて作る「フロート式」で製造される板ガラス。
*** 同社はUMUの製造・販売を専門とする企業として1997年に日本板硝子によって設立された。