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November 2022

太陽光で発電するガラスの開発

  • 「T-Green Multi Solar」を設置したビル(イメージ図)
「T-Green Multi Solar」を設置したビル(イメージ図)

日本の化学メーカーと建設会社が、共同で建物の外壁や窓に設置する「太陽光発電ガラス」を開発した。

国際社会において気候変動対策が進む中、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を達成する目標を掲げている。現在、様々な分野の企業でカーボンニュートラルの実現に向けた取組や新たな製品開発が加速している。

そのカーボンニュートラルの実現に貢献する技術の一つが太陽光発電だ。近年、日本国内では、太陽光発電の普及が進み、その発電量は増加してきている。かたや、太陽光発電のための設備・太陽電池モジュール(ソーラーパネル)を設置するためには、一定のスペースを確保する必要があるが、現実には、建物が密集する都市部、特にビジネス街では、太陽光の当たるまとまったスペースがビルの屋上といった場所に限られ、その省スペース化が大きな課題となっていた。そうした中、総合化学メーカーの株式会社カネカと総合建設会社の大成建設株式会社は、建物の外壁や窓に設置できる太陽光発電ガラス「T-Green Multi Solar」を2019年に共同開発した。

1980年代から太陽電池の基礎研究を開始したカネカは、ガラスに極薄のシリコン膜をコーティングした太陽電池や屋根瓦と一体化した太陽電池など様々な太陽電池を開発してきた。一方、大成建設は、2014年に同社の技術センター内に建設した「ZEB(Zero Energy Building)実証棟」において、省エネルギー技術や太陽光発電によって建物全体のエネルギー収支ゼロを実現し、建設分野での省エネ・創エネをリードしてきた。

「カーボンニュートラルの実現という時代の要請もあり、両社のこれまでの実績や課題を踏まえて太陽光発電ガラスを共同で開発することになりました」とカネカの中島昭彦(なかじま あきひこ)さんは語る。「建設分野でカーボンニュートラルを推進する上で、太陽電池の先進的な技術開発を行う企業と一緒に取り組んでいく重要性を感じていました」と大成建設の佐取徳隆(さとり のりたか)さんも話し、「T-Green Multi Solar」の特徴を次のように説明する。

「都市部では建物の屋上の面積は限られますが、この製品はビルの窓や外壁に外装材として広範囲に設置できます。日差しの強い日中だけでなく、東側では朝日、西側では夕日によって長時間の発電が可能になる点も重要です。また、太陽電池が外装材と一体化していることから施工もしやすく、一般的な外装材と同等の耐久性もあります。そして、災害時には独立した非常用電源としても機能します」

「T-Green Multi Solar」は、太陽電池モジュールを外装パネルとしてそのまま利用する「ソリッドタイプ」と、複層ガラスに、両面で発電できる4ミリ幅の太陽電池を平行に、ストライプ状に挟み込んでいる「シースルータイプ」がある。前者は外壁部に取り付けるタイプで、後者は窓ガラスがそのまま発電装置になるイメージだ(図参照)。シースルータイプは、直射日光だけでなく、太陽電池の隙間を通り抜け、室内側のLow-E膜*をコーティングしたガラスで反射した赤外線などの光も太陽電池に当たる仕組みになっている。ガラスで太陽電池を挟み込む構造を活かし、本来は反射して外に逃がすはずの光も取り込めて発電できる点も大きなメリットだ。このシースルータイプは、発電効率と意匠性の両立が評価され、2021年度のグッドデザイン賞を受賞している。2022年には、東京都の進める再生可能エネルギーに関する見える化モデル事業にも採択された。今後、東京国際展示場などの都の施設に「T-Green Multi Solar」が順次設置される予定だ。

設置条件にもよるが、シースルータイプを電源として使うと、約1平方メートルあたり1日でスマートフォン約9台分の充電が可能な電力を生み出せるという。

今年(2022年)10月初旬には、バルコニー用「T-Green Multi Solar」を開発し、公表した。これは、戸建て住宅、マンションのバルコニーにも設置できる発電システムで、バルコニーの手摺部分に「T-Green Multi Solar」を導入している。従来のソリッドタイプとシースルータイプの半々に組み合わせたハーフタイプを新たに加え、バルコニー下方からの視線を遮(さえぎ)り、室内からの眺望を確保する工夫がなされている(図参照)。

今後は、海外でも展開する考えだ。「それぞれの国の建築用ガラス製造技術を活用し、現地の雇用も促しながら事業展開を図っていきたいです」と中島さんは言う。「太陽電池部分は日本国内、ガラスは現地のパートナーと協力して製造し、様々な国に太陽光発電ガラスを広めていきたいです」

日本発の先進的なガラスが、世界の窓や壁を変えるかもしれない。

「T-Green Multi Solar」のガラス手摺が設置された超高層マンション(イメージ図)
「T-Green Multi Solar」の仕組み

* Low-E膜はガラスにコーティングすると断熱性能と日射遮蔽性能を高める金属膜