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November 2022

ガラスのカーテンウォールが印象的な美術館

  • 波のようにうねったデザインの国立新美術館のガラスの外観
  • 建物の内と外をゆるやかにつなぐアトリウム
  • アトリウムの中にある外の木々が見えるロビー
  • 有機的な曲線を大胆に取り入れて設計されたアトリウムのレストラン(中央)
波のようにうねったデザインの国立新美術館のガラスの外観

東京の国立新美術館は、世界的な建築家である黒川紀章によって設計された、ガラスでできた巨大なカーテン状の壁面「カーテンウォール」が印象的な美術館である。

建物の内と外をゆるやかにつなぐアトリウム

六本木(東京都港区)は、レストラン、バー、ブランドショップ、ホテル、映画館、アートギャラリーなど様々な施設が集まる、東京を代表する街の一つだ。そうした六本木の一角に建つのが、「国立新美術館」だ。美術館の建物は、地上4階、地下1階で、外観は、波のようにうねったガラスでできた巨大なカーテン状の壁面「カーテンウォール」がひときわ目をひく。高さ約22メートルのガラスの壁面が約160メートルにわたって続き、まるで巨大なガラスの宮殿のようだ。開館は、2007年で、「森の中の美術館」をコンセプトとしており、その建物の周囲には、隣接する青山霊園と青山公園の緑地との連続性も考慮した上で、多くの木々が植えられている。

国立新美術館の設計を手掛けたのは、世界的建築家・黒川紀章(くろかわ きしょう。1934〜2007年)である。1960年代、社会の変化や人口の増加に合わせて有機的に都市や建築が成長するという理論「メタボリズム*」を提唱した一人としても知られている。

長年、黒川紀章の右腕の一人として、国立新美術館の設計にも携わった黒川紀章建築都市設計事務所の亀井正弘さんは、「3次元的で複雑な曲面をもつガラスのカーテンウォールが、建物の内と外、自然と人工物をゆるやかにつなぐ中間領域を作り出す役割を果たしています。これは、黒川さんが提唱し続けてきたメタボリズム、そして『建築と自然との共生』を具現化したものです」と語る。

アトリウムの中にある外の木々が見えるロビー

ここで言う中間領域とは、建物の南側を覆うカーテンウォールと展示室との間にあるアトリウム**である。そこは、1階の床から天井までの高さが21.6メートル、東の端から西の端までが150メートル、床面積は約3,180平方メートルという開放的な吹き抜けとなっており、来館者が外からの光を感じ、周辺の木々の緑を楽しむことができる空間である。アトリウムにはレストラン、カフェ、ミュージアムショップなどの施設が設けられ、多くの人々が集り、行き交う場所にもなっている。

そして、このアトリウムには、屋根やカーテンウォールを支える柱が1本も立っていない。それは、床から天井までの高さがあるマリオンと呼ばれる鉄製の柱を、2メートル間隔にカーテンウォールに組み込む構造で分散配置し、屋根やカーテンウォールを支えているからである。大きな柱がないことで、アナトリウムはより開放的な空間となっているのだ。

有機的な曲線を大胆に取り入れて設計されたアトリウムのレストラン(中央)

また、カーテンウォールの外側には、建物に入る紫外線と赤外線を減らすために、水玉模様をプリントしたフィルムを挟んだ二枚合せガラスの水平ルーバーを設けている。マリオンとガラスルーバーによりカーテンウォールを格子状に見せて、建物の外観に立体感を与えている。

展示スペース14,000平方メートルと日本最大級の国立新美術館は、一般的な美術館と異なり収蔵作品を持たないため、常設の展示はない。その代わりに、同美術館独自の企画展や、様々な団体が主催する展覧会が常時開催され、あらゆる種類のアート作品が入れ替わりで紹介される場となっている。さらに、同美術館には図書館、講堂、研修室などの施設があり、美術に関する情報や資料の収集・公開・提供、様々な教育普及プログラムが実施されている。

ガラスのカーテンウォールと、それが生み出す開放的なアトリウムは、美術館に来館するあらゆる人々や、多様なアートを受け入れる国立新美術館を象徴する存在と言えるだろう。

国立新美術館
東京都港区六本木7-22-2
開館時間:10:00-18:00 ※入場は閉館の30分前まで。
休館日:毎週火曜日(祝日又は振替休日に当たる場合は開館し、翌平日休館)、年末年始
https://www.nact.jp

* 生物学用語で「新陳代謝」を意味するが、都市と建築の世界において、環境に適応する生き物のように次々と姿を変えながら増殖し、都市の成長を説く建築運動の意。
** アトリウムは、ガラスやアクリルパネルなど光を通す材質で屋根を覆った大規模空間。