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November 2022

日本の伝統美をガラスで表現するアーティスト

  • ガラス工芸作家の黒木国昭さん
  • 花器 金・プラチナ象嵌「光琳」(高さ49.6センチメートル、径31センチメートル)
  • 綾切子 三層二色 大皿(高さ7センチメートル、径33センチメートル)
  • 行燈(あんどん)金彩象嵌「光琳」(高さ128センチメートル、幅32センチメートル、奥行き32センチメートル)
  • 冨嶽三十六景 花器 「凱風快晴」(高さ54センチメートル、幅38センチメートル、奥行き30.5センチメートル)
ガラス工芸作家の黒木国昭さん

ガラス工芸作家・黒木国昭(くろき くにあき)さんは、昔の絵画などに表れた日本の伝統美や自然の美をガラス工芸において表現し、国内外の多くの人々を魅了している。

花器 金・プラチナ象嵌「光琳」(高さ49.6センチメートル、径31センチメートル)

日本のガラス工芸の第一人者として知られる黒木国昭さんは、約60年にわたり数多くの作品を世に送り出してきた。1945年生まれで70代後半の黒木さんは、現在、生まれ故郷に近く、日本でも有数の照葉樹林が広がる緑豊かな宮崎県綾町(あやちょう)で、ガラス工芸工房「グラスアート黒木」を主宰している。

黒木さんがガラスに関わる仕事に就いたのは今から60年近く前のこと。宮崎県内の高校を卒業すると、美術教師の勧めで東京のガラスメーカーに就職した。

「上京したその日に会社を案内してもらっている時、私は工場の片隅で西日を浴びてきらきら輝くカレット*の山を目にしました。それはゴミとして捨てられるガラスの屑でしたが、私には宝石以上に美しく見えたのです」と黒木さんは当時を振り返る。

綾切子 三層二色 大皿(高さ7センチメートル、径33センチメートル)

ガラス工場で働き始めた黒木さんは、夜は美術学校に通い、休日は美術館を巡って、寝る間も惜しんで自分の感性を磨いていった。そんな日々に出会ったのが、17~18世紀にかけて活躍した日本美術を代表する絵師にして工芸家、尾形光琳(おがた こうりん。1658〜1716年)と彼を中心とする琳派**の作家の作品だった。

「東京国立博物館で光琳の代表作『紅白梅図屏風』を目の前にした時、私はその場から動けなくなるほど感動しました」と黒木さんは言う。

行燈(あんどん)金彩象嵌「光琳」(高さ128センチメートル、幅32センチメートル、奥行き32センチメートル)

20年あまりガラス工場で腕を磨いた黒木さんは1984年から独立し創作活動を開始する。60年近くの間に発表した作品は、光琳らが絵画によって表現した日本の伝統美を、絢爛豪華な金、カラフルで優美な象嵌***によってガラス器に日本の風土や花鳥風月を表した「光琳・琳派シリーズ」のほか、和紙の代わりにガラスを用いた行燈、葛飾北斎や歌川広重の浮世絵のオマージュ作品など、実にバラエティに富んでいる。小さなガラスのパーツや金箔をちりばめ、何層にもガラスを重ねた作品は、光と彩りの深さによって、繊細でありながらも豪華な雰囲気を持つ日本的な美が輝いている。

黒木さんは、作品の展示法にもこだわり、上からの照明だけでなく、下からの反射光も受けて作品全体が美しく輝くように、多くの作品を鏡の上に置く。

冨嶽三十六景 花器 「凱風快晴」(高さ54センチメートル、幅38センチメートル、奥行き30.5センチメートル)

「1200度という高温から生まれるガラスの工芸品は、1000年経っても色褪せることはありません。だからガラスで表現された日本の伝統美は、壊れない限り未来永劫楽しめます」と黒木さんは語る。「一方、ガラスは透明なので、うまくできなかったところを覆い隠すことができません。だからこそ、私は新たな技術や表現を常に追い求め、それを磨き続けてきたのです」

1991年、黒木さんはガラス工芸作家として初めて「現代の名工(卓越した技能者)」の表彰を受けた。また、2008年には「ガラスの聖地」と呼ばれるイタリア・ベネチアの美術館で2か月に及ぶ、約100点の作品による展覧会を成功させ、現地のガラス工芸の専門家を始めとする多くの人々から絶賛された。

近年、黒木さんが取り組んでいるのは、2012年にユネスコエコパークに登録された綾町の照葉樹林をテーマにした多色切子「綾切子シリーズ」である。そこには、日本にある、すばらしい自然を、いつまでも色褪せないガラスの輝きによって後世に伝えていこうという強い気持ちが込められている。

* 壊れた、あるいは壊したガラスくずのこと。
** 琳派は江戸時代を中心とする絵画、工芸や書の流派。背景に金箔・銀箔を使い、大胆な構図が特徴。最高傑作と言われる尾形光琳の『紅白梅図屏風』をはじめ、光琳の『燕子花図屏風』俵屋宗達の『風神雷神図屏風』などが有名。
*** 工芸品の装飾技法の一つ。金属・木材・陶磁など地の素材を彫り、そこに金、銀、貝など、他の材料をはめ込んで模様を表す。